人生観を変えたラトビアの夏至祭
神戸市須磨区でラトビア雑貨の専門店SUBARUを経営している溝口明子です。
ラトビアでの思い出、職人さんとの仕入れエピソードなどはおいおい記したいと思いますが、まずはガツンと人生観が変わった体験を紹介したいと思います。
その前にラトビアについて少し。北欧・バルト三国の中央に位置するラトビア共和国は面積が北海道の約77%、人口が約192万人という小さな国で、自然が溢れる美しい大地で歌と踊り、伝統文化を大切に継承する人々が暮らしています。首都リガ市は旧市街が丸ごと世界遺産に登録されており、中世の雰囲気を今に伝える情緒ある街です。
私とラトビアとの出会いは2009年になりますが、その2年後の6月にラトビア人が最も大切にしているという「夏至祭」に連れて行ってもらいました。
緯度の高いラトビアでは夏と冬の日照時間が大きく異なり、古来より太陽の動きが生活に大きな影響を与えてきました。昼の時間が一番長い特別な日を家族や親戚、友人と森や海辺で過ごすのがラトビアの夏至祭で、幾つかのしきたりに則って行われます。
まずは草原でたっぷりとお花を摘んで花の冠を作ります。並行して御馳走の準備も。中でもキャラウェイシードの入ったチーズとビールは必須です。色とりどりの民族衣装に着替えて女性は花の冠を、男性は樫の葉の冠をかぶればお祭りの始まりです。焚火を囲んで、歌って、踊って、飲んで、食べて翌朝まで過ごします。日の入りが近づくと海辺へ移動し一年で一番長かった太陽が沈むのを見届け、同時に太陽の代わりを意味するかがり火を灯します。夜が更けても焚火を囲んで宴は続きます。途中、次の1年の健康を祈願して焚火を飛び越え、前年の夏至祭で使った冠を焚火にくべて燃やします。
この年の冠は翌年の夏至祭までお守りとして家で飾られます。新しい太陽が昇るまでこうして時間を過ごします。
ラトビアの民謡では「夏至の夜に眠るものは、夏の間眠ることになる」と歌われており、子ども達も深夜まで走り回っていました。
ラトビアはのんびりした国ですが先進国で、友人たちは都市部で私と変わらぬ生活を送っています。その友人たちが夏至祭になると仕事も細かい用事も全て忘れて、親しい人と自然に飛び込んで過ごす時間に強く感銘を受けました。また、延々と続く海岸線にはどこまでもポツポツと連なる焚火が見え、「この瞬間ラトビア全土で誰もが同じような時間を過ごしてるんだ!」と分かり、衝撃が走りました。
似たような日常生活を送りながらもこんな時間の過ごし方が出来るラトビア人の豊かな暮らしに触れ、自分の生き方を見つめ直す一夜となりました。