「音談るつぼ」♯8 飛高聡さんと。(前編)
関西に移り住んで一番よかったのは、たくさんの魅力的な人と出会えること。 私の場合、人とはたいてい音楽やライブを通して出会う。「飛高聡」さんもその一人。 飛高さんはライブ活動のほか、ジャズセッションのホストも務めるベーシストだ。 ホストさんはどんなことを考えて演奏しているんだろう。 お話を聞くことができた。
(いろんなジャンルのセッションがあるけれど、ここではジャズのセッションについて書いていきます)
「セッション」にはジャズのエッセンスが詰まっている。
セッションとは、居合わせたミュージシャン同士が、その場で演奏すること。 多くのセッションには「ホスト」と呼ばれる人がいて(※)、セッションに不慣れな人が参加したり、演奏中に意思疎通がうまくいかなかったりするときに、演奏が滞らないようサポートしてくれる。 また演奏面だけでなく、全員が平等に演奏できるよう、場を仕切るのもホストさんの役目だ。
(※ セッションによってはホストがいない場合もあります。)
飛高さんはセッションホストをして8年目。 毎週土曜のレギュラーセッションと、依頼に応じて不定期で入るカタチで、大阪市内2軒のお店でセッションホストを務める。
ホストを務めることについて、「ジャズは即興性のある音楽。 出会ったその場で演奏をするセッションは、ジャズのエッセンスが詰まったものだと思う。 そこに関われて嬉しい」と飛高さんは言う。
確かにセッションはジャズの醍醐味だと私も思う。 ただ、ジャズ界隈では「自分よりうまい人と演れ」という声を時々聞く。 うまい人と共演する方が学びが多く、自分が成長できるという意味なのだけど、ホストさんはこのへん、どう考えてるんだろう。 セッションに来るのはうまい人だけではない。 初心者の人と共演するのは、正直、退屈ではないですか?
ああ、そういう意見もありますね、と飛高さんはうなずく。「でも僕はどの演奏もおもしろいんですよ」ときっぱり言い切った。
「セッション」での演奏はおもしろい。誰と共演しても。
飛高さんによると、セッションで演奏する場合「参加者の中で一番初心者の人に合わせないと、音楽として成り立たない」のだそう。 仮にうまい人を主役に立てちゃうと「独奏とその他の音」といった、それこそ演ってても聴いててもおもしろくない図になってしまう。
「テクニックを追求する人にとっては物足りないかもしれないが、音楽的に成立するよう初心者に合わせるのも、セッションのおもしろさ」と、飛高さんは考えている。「おもしろさ」に対する視野がずっと広いのだ。
参加者としては気が楽だなと思う。 初心者じゃなくても、入るべきところで入れなかったり、エンディングで困ったりといったケースはセッションにはつきもの。 それをホストさんが楽しんでフォローしてくれているとしたら、余計なことを考えずに演奏に集中できそう。
飛高さんは「後で録音したものを聴いて、まだまだ合わせられてなかったなと反省することもある」そうで、「合わせる」と一口に言っても、さまざまなケースに対応するのは容易でないこと、そして飛高さんが常に真剣勝負で演奏していることがうかがえる。
街で行われているすべてのセッションのホストさんがそうだ、とは言えない。 でも少なくとも飛高さんはホストとして、どなたとの演奏も楽しむ。
「セッション」には想像を超えたいろんな人が来る。
じゃぁ、いろんな人がいて大変じゃないですか? と、なお突っ込んで聞いてみた。 ジャズセッションの場合、参加者は年齢も性別もばらばら。 ジャズの範囲内ではあるが、人それぞれいろんな嗜好をお持ちで、セッションに求めるものも違う。
「とにかく場数を踏んで腕を磨きたい」というテクニック志向の人はもちろん、「自分はフロントだから、みんなが自分に合わせるべき」とか、「自分がソロのときはバッキングを控えてほしい」といったこだわりをお持ちの人もいる。「ライブじゃないし」と、なぜかセッションを下に見ている人もやって来る。
それぞれの考え方が正しい、正しくない、という話ではなくて、まるで社会の縮図のような多種多様な考え方をする人の集まりを、「セッション」というくくりだけでまとめるのは、本当に大変だろうなと思うんです。
だが飛高さんは、「だからこそセッションはおもしろい」と言う。「なにも人種の坩堝にいるわけじゃなく、同じ日本人で、ほぼ同じ教育を受けて育ってきているのに、こんなに考え方が違うんだ、という驚きとおもしろさがある。 想像を超えてくる人はなんぼでもいて、しかもそういう人と一緒に音楽をやるんですよ。 そんな場はほかにない」と笑っている。 セッションの大変さとおもしろさは表裏一体。 奥深い世界なのだ。
そもそもセッションで、全員が満足して帰るなんてことは無理かも。「うん、無理ですね」と飛高さんもうなずく。「一つ一つの要望には、自分にできることの中で一生懸命対応する。 それでも何か不満に思いながら帰られる人がいらっしゃるかもしれない。 その場合はすみません、と思いながらやっています」
「セッション」に行こう。
こんな話をしたしばらく後、飛高さんがホストを務めるセッションに参加してきた。 飛高さんはとても忙しい。 ベースを弾き、場を仕切り、弾かない間は参加者リストで全員にまんべんなく出番がまわっているかチェック。 さらに、出番が迫った人に「この曲が終わったら次お願いします」と一声かけ、心の準備ができるよう配慮する。 演奏中に誰かの譜面がひらりと落ちるようなことがあれば、さっと前に出て譜面台に戻してあげるし、場合によってはドリンクオーダーにも対応する。 すごく働き者。 充実のホスピタリティ。 あふれ出るキャパのデカさと誠実さ。 その姿を見ていると、「セッションの演奏って正直おもしろい?」とか「大変じゃない?」とか、ずいぶん浅慮な質問をしちゃったなと反省した。
さて、セッションに参加してみたくなったという方がいらっしゃいましたら、「お住まいの街」「ジャズ」「セッション」あたりのキーワードで検索してみてください。 コロナ禍で開催数は減っているものの、何かしらヒットすると思う。 最近は感染症対策による人数制限のため、予約が必要なこともあるのでご注意を。 初めての方にはもちろん、ホストさんがいるセッションがおすすめです。 何かわからないことがあっても、万一演奏がうまくいかなくても、きっとホストさんがフォローしてくれます。
次回の「音談るつぼ」は引き続き飛高さんにご登場いただき、今度は飛高さんご自身のことを話題に語ります。
飛高 聡(ひだかさとし)
大阪府堺市出身。 仕事をしながら音楽活動を続けるジャズベーシスト。 学生時代にクラシックギターやエレキベースを弾き始め、卒業後はウッドベースに転向してジャズに取り組む。 ライブで演奏するほか、「いんたーぷれい8」(大阪市北区西天満6-9-9久栄ビルB1)、「Live Jazz & Bar Beehive」(大阪市城東区新喜多1-1-3 ダイワビル1F・2F)でセッションホストとしても活躍中。 2匹の猫飼い。
飛高 聡|Facebook
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