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ハイシーズン始まる / バンコク在住ギタリストの日常 ④

MUSIC, LIFE STYLE

Wonderfruit

Wonderfruit はパタヤで2014年にスタートしたタイのフェスティバル。

通常は世界中からアーティストが来タイするんだけど、今年はコロナの影響で一旦中止が決定。その後、タイのローカルアーティスト中心に、年末年始の5週間にわたって週末フェスとして開催されることになった。

そんな事情もあって、バンコクアンダーグラウンドの片隅に生息中の日本人野良ギタリストにもダイレクトに出演オファーが届いたわけだ。

郊外のフェスは移動やら機材運搬が過酷なので、ひとりで機材を担いで動く俺にはヒジョーにきびしい環境だが、フリーランスのソロミュージシャンにこのオファーを断るって選択肢は無いわけで、答えはもちろん『Yes』一択で即出演決定。

ちなみに俺は2017年に初めて Wonderfruit に参加したが、その様子は過去のブログで読めるのでお暇な方はどうぞ。

>>瀧 康太 過去ブログ

ライブが重なった上に移動があまりに過酷すぎたし扱いは悪いしで実はめちゃくちゃ機嫌が悪かった(笑)。 前回まではフェスに参加しているお店のオファーで今回は主催グループの直接オファーなので、以前よりは扱いはぜんぜんマシである。

一応オフィシャルフライヤーにも「KOTA TAKI」と載っているし事前の機材打ち合わせやらサウンドチェックの時間もある。あとは自力でサバイバルって感じで。

今年は俺は12月の第1週の土曜の夜に出演。

オファーが届いたときに出演条件を確認すると、オープンエアーのライブバンド仕様のステージでの1時間のソロ演奏と書いてある。

豪華なバンドラインナップの中でおっさんひとりの1時間ステージってのは絵面が地味過ぎやしないかい?ここは一発バンド形態でやるべきでないかい?と思って『ライブステージってことはドラムセットもあるんだよね?』と返したところ、『KOTA、君にはソロをやってほしいんだ』と即却下された(笑)

まぁ冷静に考えれば先方はソロを見て出演依頼を出しているわけで当たり前っちゃ当たり前なのだ。

長期停滞後にいきなりのプレッシャーで軽くビビっただけだ。

ともあれ『OK。ソロやるわ』とすぐに返事をして [さてどうする…?] とイメージトレーニングを繰り返す毎日だ。

今回出演するタイのアーティストの中でお薦めするのは『Yellow Fang』『HED』『The Paradise Bangkok Molam International Band』…かな。

Yellow Fang

Facebook
https://www.facebook.com/yellowfangloveyou/

この中で俺が一番よく聞くのは『Yellow Fang』

Yellow Fang は日本のサマソニ等のビッグフェスにも出演しているタイを代表するガールズトリオバンドで、歌良し、曲よし、アレンジ良し、コーラスワーク良しでおまけにルックスも育ちも良いというハイスペックなお嬢様方である。一見の価値あり。

貼り付けたYoutubeはエレクトロディスコな最新曲。サポートメンバーも全員女性でそれぞれ個性的ですが、中でもベーシストのクールな立ち姿が粋。

HED

YouTube channel
https://www.youtube.com/channel/UCjOZk4efYYl3aiOzaVgrCLg

『HED』はタイの伝統楽器《ピン》や《ケーン》をメインに使ったインストバンド。

トリオ編成ってのもあって、ちょっと Khruangbin の影響を感じるかな…もともとはKhruangbinがタイの音楽に影響を受けているわけでなんだかおかしな話なんだけど…。

シンプルでタイトなリズムセクションと伝統楽器+現代的なエフェクトというトライバルフュージョンDUBって感じのアレンジに、そこはかとなくバンコクの今の空気感がある。

まだ結成間もないバンドなので、これからもっと進化していくのではないかな…と期待している。

いくつもの伝統楽器を弾きこなすフロントマン Ton の才気溢れるマルチ奏者っぷりが見どころ。

Paradise Bangkok Molam International Band

YouTube channel
https://www.youtube.com/channel/UCRLfT16_vLwdJBLW7CKMhvQ

『The Paradise Bangkok Molam International Band』は現在タイで微妙に盛り上がっているイサーンミュージックリバイバル (日本の1990年代の沖縄ブームみたいな感じかな…) の立役者 DJ Maft Sai がプロデュースするハイブリッドルーツミュージックバンド。

2019年にはフジロックに出演して日本ツアーもやっていたのでライブを見た方がいるかも。

活動初期からヨーロッパツアーも行っているライブバンドで、ベテランのピン奏者、ケーン奏者のふたりのおっさんのいぶし銀の演奏は世界中のお客さんのテンションが上がる本物の音。

とにかく説得力が半端ない。衣装や佇まいも含めていい味出てます。

・・・

12月の第1週から2021年1月まで5週間に渡って毎週末開催なので、まだまだ面白いアーティストが出てくるはず。

バンコク – 12月

12月はタイの最高に気持ち良い季節。ハイシーズンだ。

残念ながら旅行者のいない街はさみしい状態ではあるが、居住者がタイ国内を旅行する気になれば、逆に混雑もなくて動きやすい。

みんなの欲求不満を表すかのようにローカルフェスが例年以上に盛り上がっている。

独り身の俺には特別なイベントがあるわけでもなく、正月はまだ一度も行ったことのないチャオプラヤ川の中洲の島、クレット島で友人と地ビールでも飲んでゆったり過ごそうと考えているくらいだ。

隣国のミャンマーで爆発的に感染者が増えてタイ北部には影響が出始めているが、昨今のバンコク界隈ではコロナよりデモの方が大きな話題だ。

学生を中心とした今回のデモはとても現代的で暴力的な騒ぎも少なく平和に進んでいる。

しかし、規模が拡大してきたことでタイ政府もしびれを切らせてきているので、この先はどうなるかぜんぜんわからない。

タイ人にとってクーデターはぜんぜん珍しいものではなくて、1970年代には軍が学生達を銃撃した『血の水曜日(タンマサート大学虐殺事件)』という大きな悲劇があったし、2010年にも2000人以上の死傷者を出す『暗黒の土曜日』という武力弾圧が起きている。

俺がここに来てからの間だけでもデモやそれに伴う爆弾騒ぎ等で亡くなった人は多い。

要するに、軍や警察がいきなり強硬手段に出る可能性は常に頭に置いておかなくてはいけないわけだ。

2020/11/27現在は凍結状態の『不敬罪』のことも忘れてはいけない。

例えば2017年にFacebookで王室への中傷を繰り返したとして男性が禁錮35年の判決を受けている…ネットの悪口で禁固35年て…しんどいわ。

そんなわけで不敬罪ってのは王族を盾に警察や軍のさじ加減でやりたい放題できるという恐ろしい法律なのだ。

この法律の凍結前は、政府に目をつけられた民主活動家は国外に逃亡するしかなくて、ここ数年間で何人もの活動家が外国で謎の死を遂げたり行方不明になったりしている。

下記は今回のデモの引き金になったと言われている事件の記事。興味のある方はどうぞ。

(参考:タイ民主活動家失踪の闇)

デモの中心となっているタイの学生達もこのような過去の状況をよくわかった上で、中国共産党に抗っている香港の若い活動家達のプランを参考にして常に冷静に事を荒立てず情報を世界に発信し続けることで身を守っているようだ。

狙い撃ちされない為に代表を立てずリーダーの存在を曖昧にしたり、デモの場所をその日の直前にSNSで発表したり、ファンシーなキャラクターを使っているのは過去の流血沙汰を踏まえた上で相手に暴力を使わせない為のライトな演出をしているようにも見える。

いろいろな場面を見ていると、危険に相対している時でも彼らはなんだか明るいことに気づく。悲壮感がない。南国の国民性ってのを感じる場面だ。

現代の日本でおこなわれるデモで命の心配をする必要はほぼ無いし、そういう意味では日本ってのは本当に平和で安全な国なのだけど、その半面若い世代の死因の第一位が自殺というおそろしく閉塞間に満ちた国でもある。

根無し草の俺には《何をもって良い社会なのか》ってのはまったくわからないし、タイの問題についても外国人なので蚊帳の外だが、若いタイの友人たちがアップするデモの写真や映像を眺めながら、『部屋に閉じこもった挙句に自殺するよりは軍に抗って射殺される方がマシな死に方なんじゃないかな…』とか、『若者はキラキラしてるなぁ』とか、『自由と危険は隣り合わせだなぁ…』などと愚にもつかぬことをつらつらと考えているうちに2020年は終わりに向かっていくのである。

 

今回はここまで。

追記:
KOTA TAKI at Wonderfruit 2020