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CULTURE

Beginning of a new life / バンコク在住ギタリストの日常 ⑦

CULTURE, MUSIC, LIFE STYLE

Itsaraphap อิสรภาพ

地下鉄のサナーム・チャイ駅を降りて歩き始める。 仕舞いかけの パークローン花市場 を通り抜けてプッタ・ヨードファー橋でチャオプラヤー川を渡る。 橋の上から対岸の川沿いの道へ階段を降りるとたくさんのホームレスが巣を作っていて grab のデリバリードライバーたちがたむろしている。 強い日差しでペイントが色褪せてボロボロになった壁を眺めながら古い町並みを抜けると真っ白な仏塔がまぶしい ワット・ピチャイヤートカーラーム が現れる。 寺の中を通り抜けると貧民街の迷路のような幅1.5mほどの狭い路地。 闖入者の俺に住人たちの『お前誰やねん何しに来てん』というダイレクトな視線が集まるが、それをガン無視して迷路を抜けるとイッサラパープ通り。 道を渡って30mほどで新しい住処に辿り着く。 そんなわけで、6月から日本人の友人とふたりでシェアハウスという形で Itsaraphap (イッサラパープ) というエリアのタウンハウスに住み始めた。

At Thanon Somdet Chao Phray

実は家が見つかるまでにもう1か月程度はホテル暮らしだろうと踏んでいた。 ところが、4月末にアパートの部屋を解約して約1か月間のアソークのホテル暮らしで気分転換をしてあっさり引っ越し… というのも、ホテル暮らしをしている俺はタイの子たちから見ると『ナーソンサーン(意味:かわいそう)』ということで、同居人のA君のタイ人彼女が気合い十分で物件の検索と契約交渉を手伝ってくれたのだ。 おかげで速攻で物件が見つかって速攻で契約が成立してしまった。

バンコクで1件目の部屋を探した時もタイの友人に付き合ってもらったが、間違いなく外国人がひとりで探すよりも現地の人に入ってもらう方が話が早い。 今回は特にアパートではなく家を借りたので、外国人に家を貸したときに発生するコミュニケーションの問題やイミグレーションへの報告、手数料やもろもろの外国人が故の手続き等が原因で断られたところもあったのでとても助かった。 あと一点、A君は読み書き含めてタイ語をよく勉強しているので大概の話は自分でもできる。 素晴らしきかな。 正直なところ、今回の契約に関しては俺はなんの役にも立っていないのである(笑)

DEEP ROOT CAFE のわんこ

そんなこんなで現地に行って家を内見した後、ICON SIAM のカフェに軽くお茶を飲みに行って、家探しを手伝ってもらったお礼を言うと、彼女は『コータサン、ナーソンサンナ』と言った。 心配してくれたその子には失礼ながら笑ってしまった。 ツアー先やライブの会場で、この言葉は何度も耳にしたお馴染みのタイ語だ。 さみしがり屋のタイの皆さんには《異国でひとりで過ごしている日本人》はとにかく《かわいそう》に見えるようで、毎度毎度『ひとりで来てるのか? さみしくないか?』と聞かれて『俺はソロの演者なのでいつもひとりで行動しているから大丈夫』と説明する… というのがセットになっている。

今回も、俺はどちらかというとホテル暮らしを旅行気分で完全に楽しんでいて、次の1ヶ月間住む場所として同エリアの運河沿いの古民家を改造した素敵なゲストハウスをすでにチェックして予約寸前だった。 呑気な放浪中年としては、心配してくれた気持ちに感謝をしつつも自分と周囲の感覚の違いに苦笑いという感じ。 ちなみに興味があったのは KINN Stay50 Bangkok というゲストハウス。 ゆるゆるな感じで素敵です。 リバーサイドエリアには古い木造家屋を改造したゲストハウスがけっこうあってお勧めです。

At Bangkok Yai

そんな経緯で借りた家は3階建てで2階と3階には1フロア1部屋の寝室とエントランス、シャワールーム×2、1階は路面に面しているオフィス、またはお店用スペースという感じでここは楽器とPC類が仕込んである。 家賃は1ヶ月2万バーツ〈約6万円〉で契約時に前金で3ヶ月分を預ける。 ロケーションはバンコクのクローンサーンという地区で自宅からチャオプラヤー川までは徒歩10分ほど。ワット・アルン まではバイタクで10分くらいかな… 地下鉄の駅もあるし大きなスーパーもホームセンターもある。 地下鉄の駅が完成してまだ数年ということで、まだ古き良き時代の匂いのするバリバリのローカルエリア。

このエリアが気に入った理由はまずチャオプラヤー川に気軽に散歩に行けること、次に地名に イッサラー(タイ語で自由)という言葉が入っていたこと、そして川を渡ればすぐに王宮エリアだし昼間働いているスクンビットエリアにも地下鉄で20分でアクセスできる… 等々いろいろ上げられるが、初めて駅を出て街に降り立った時から気に入ってしまったので結局のところは《空気感》としか言いようがない。 実際に移ってからわずかの間にちょっと歩いただけで好きな場所をいくつも見つけた。

下の写真の年代物の木造の家。 目の前は壮大なリバービューできれいな遊歩道がある。 建物はボロボロだけど、直したらめちゃめちゃ良いお店になりそうだなぁとかチルアウトパーティー組んでゆっくり演奏したいなぁとか想像を巡らせるだけで楽しい。 遊歩道沿いには小さな教会や中国式のお寺なんかもある。 車の入れない狭い路地がたくさんあって路地フリークには最高での街である。 先日散歩中に路地を縫って発見した DEEP ROOT CAFE は、観光で来ただけでは間違いなくたどり着かない辺鄙な場所にあった。 数々の路地をくぐり抜け、道の終わりに見えたその先に、100年前に使われていたライスバーン(米倉庫)の廃墟跡があって倉庫の正面の壁だけが残っている。 そこがカフェだった。 映画のセットみたいな感じ。 壁の前には食材にする野菜畑があって適当に机や椅子が並べてある。 近所の空き地では地元民たちがセパタクロウの試合で盛り上がっていた。 ゆったりと時間が流れる気持ちの良い空間。 とても気分がよい。

DEEP ROOT CAFE
https://www.wandeehouse.com/food/667

Old wooden house at Thanon Thetsaban Sai 1

チャオプラヤー川の本流以外の運河や支流は基本的には下町エリアなので食事がとても安い。 駅前でガパオライス(目玉焼き付き)を買ったら20バーツ(約60円)でびっくりした。 前住んでいた地域の半分以下だ。バンコクの中心部はとても便利だけど、昨今はどの国でも都市部は景色が変わらないので情緒にかける。 個人的には旅行に来るならローカルエリアに滞在する方が異国情緒があってお勧めだ。 ゲストハウスの滞在費も一泊3,000円程度で清潔な部屋を利用できるし、治安についてはよっぽどディープな場所に迷い込まない限りは問題ない。 たとえ少々ぼったくられたところで、値段的にはたかが知れている。

タイは 微笑みの国 と言われているが、それは観光客向けの笑顔だ。 どこの国でも 金払いの良い客には微笑むし、セコイ客には愛想が悪い。 なので観光客のいないローカルエリアではみんな人見知りだし愛想も良くない。 なので、レストランなんかでは気前よくチップをつけた方が良い。 少しは機嫌がよくなってスムーズに過ごせる。 とりあえず決して日本と同じサービスを求めてはいけないし、店員やタクシーの運ちゃんに怒り出すなんてのはもってのほかだ。 アジアの中では日本店員さんのサービスが異常なのだと考えなくてはいけない。 よく日本人のおっさんがぶちぶち文句垂れてるのを見るけど、日本以外の国ではお客様は神様ではなくお前はただのおっさんだ。 店員が少々態度が悪い程度のことで人前で怒鳴りつけたりすると深刻な侮辱にあたるのでプライドの高い相手の場合は銃で撃たれる可能性もある。 タイ人はなかなか怒らないが一旦火が付くと歯止めが利かないそうで、なるべく争いにならないように普段は笑っている… という側面もあるのだ。 平和に過ごすためには《学生の喧嘩がエスカレートすると銃での抗争に発展してしまう国》であることも意識しておく方が良い。

Entrance of new base

整備されてきたとはいえ未だ混沌としているバンコクのローカルエリアで日本人が暮らすとなれば何事も起こらないわけはない。 問題のひとつも起きれば怠惰な俺でも否が応なくタイ語をしゃべるだろうし、新たな場所で新たなひらめきもあるだろう… ってなわけで、まだ家具もそろっていない状態で3階建てのタウンハウスに住み始めたわけだが、初日の夜になってさあ寝ようかとおもったところでいきなりGの洗礼である。 おまけにムカデも現れた。 即コンビニに走って殺虫剤ゲットで戦闘開始。 そこから3夜連続のG出現でこれが毎日続くのかと慄いたが、その後パッタリ出なくなった。 彼らはこの家の先住民だったのか… なんにしろあんなもんは出ない方がよいに決まっている。

ちなみにタウンハウスに住む際にバンコクに長く住んでいる友人たちから受けた注意点は、

  • ゴキブリや蚊、ネズミ等々が入りやすい
  • 泥棒が入りやすい
  • ご近所トラブル
  • 大家との家賃関係のトラブル
  • 設備関係のトラブルと修理の際のトラブル

早速ゴキブリは出たな(笑)あとは当たり前といえば当たり前のことばかりだけど、外国人の多い地域のアパートやコンドミニアムには、昼夜セキュリティースタッフがいることが多いのであまり気にしなくてもよかったが、タウンハウスはセキュリティーなどいないしエントランスが路面に接しているのでアパートの部屋とは世間との距離感が全く違う。 入口の目の前をたくさんの人が行き交っている。 家の前でバイタクの運ちゃんがゴザ敷いて寝ていたり、帰宅したらシャッターの前でおっさんたちが酒を飲んでだべっていたりもする。 毎日近所で顔を合わせる連中だし、ここはおおらかなタイだし、あまり拒絶感を出すのは角が立つ。 エントランスに花を飾ったらどうだろう… 今度はお店と間違えて近所のおっさんやおばちゃんがドアを開けて入ってこようとする。 どないやねんこれ。 休日にダラダラ寝ていたらいきなりドアが開いて知らんおっさんと目があった時はかなりビックリした。 家の前に椅子を出してタバコを吸ってたら『何の店?』と聞かれることも多い。 外人が引っ越して来たぞ、と近所の皆さんに観察されている感じもある。 まあ細かいことは気にしても仕方がない。 とにかくここはタイランド。 すべてはマイペンライなのだ。

そういや、Wi-Fiの工事に来ると言ってた業者は土曜も日曜も来ず翌週になった。 こんなことはタイでは当たり前すぎて書く必要もないと思ったが、よく考えたら日本では《約束の期日に連絡なしで業者が現れない》という事態は当たり前ではないことに気づく。 事前に連絡くらいはある。 10年間のタイ暮らしで俺もだいぶ常識が変わってしまっているようだ。 翌週、無事に現れた工事の兄ちゃんたちはビシッと制服を着ていて、テキパキと非常にきれいな仕事をして帰っていった。 どうせ適当な感じなんだろう… と思っていた自分に反省である。

結局、どこの国の人とかではなく個々の性格なのだ。 タイ人でも時間を守る人はたくさんいるし、厳しい国なのできっちりした人もとても多いのである(特に女性)。 ただ、階級社会で個人主義かつkなので個々の差が日本よりだいぶ激しい。 しかしここはそれぞれの基準で、それぞれのやり方で生きることができる。 日本では義務教育の段階から1つの基準で人間が管理されていて、その大枠からはみ出すと不良品って感じで弾き出されてしまう。 そうやって選別された集団の中には子供のころから刷り込まれた暗黙のルールがあって、皆それが当たり前だと思っている。 効率的ではあるけど少数派が生きにくい優しくない社会。 どちらが良いとか悪いとかはさて置き、基本的な考え方がかなり違うもの同士が理解し合うってのは簡単なことではない。 どこの国の人であるかというのは考えずに個人対個人で感覚的に対応するのが一番良い。

原稿を送付しようかな、というタイミングでタイはよりハードなロックダウンに入った。

※ 参考記事(タイランド・ハイパーリンクス)
バンコクなど10都県で「夜間外出禁止」など厳格な制限、7月12日(月)から実施

Wi-Fiが設置できたこのタイミングで、俺もしばらく在宅で仕事をすることになった。 ロックダウンについては今更何も言うことはない。 どうにでもしてくれって感じ。

兎に角、なんでもええから ライブやらせろ!!!

と吠えたところで何も変わらぬ… 虚しさをアテに酒に溺れる日々である。

上の動画はバンコクで知り合ってたまにバックで弾いたりもする和歌山出身のレゲエシンガー U-Key が最近リリースした曲のMV。 ちょうど俺がここで演奏活動を始めた頃に出会って、それ以来ライブをしたりグダグダ飲んだりでいつの間にやら長い付き合いになった。 今回の曲は自分でバックトラックを作って録ってみたみたらしい。 若手の連中がライブができなくてもあの手この手で音楽的に前進しようとする姿勢は悪くない。 アクセス数を稼ぐために小手先に走る下手糞な作り笑顔全開の連中は正直好かんけど、みんなみんな生きているんだ友達なんだ… と言い聞かせて薄笑いを浮かべつつ過ごす昨今である。

俺自身は今月後半に本当に久しぶりに Stylish Nonsense(Pok&June)とプライベートセッションの予定を組んだ。 コンディションも少しずつ上がっているし焦らずやるさ。

皆様もコロナに負けず幸せな日々を送ってくださいませ。
今回はここまで。

I don’t believe in ” art “. In that sense I am not an artist.
I believe in music to the extent that it was here before we were.
In that sense I am not a musician.

Keith Jarrett