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CULTURE

セックス!スパイス!!ロックンロール!!!(第2話)

CULTURE, LIFE STYLE

第2話「マンハッタンのレンタルビデオ屋であの名作は生まれた」

「AV監督ってどうやってなれるんですか?」

みんな僕が元AV監督と知って、驚きながらこんな質問を投げかけてくる。

もし、あなたがAV監督になりたいと思えば、今からでもすぐになることができる。 ある程度のPC環境が揃ってさえいれば、誰でも。 そして何かしらの媒体で、自身が作成した映像を販売できる環境を揃えれば、いつだって。 今や、iPhoneの性能も格段に上がっているから、大層な機材を購入しなくても、そこそこのクオリティの映像を撮れるんじゃないだろうか?(いつかの回で言及すると思うがiPhoneでの撮影はあまりオススメはしない)
その準備ができていれば、今日からあなたもAV監督になれる。 そんなに難しいことではない。

ただ、誰も本気ではなろうとしていないだけ。

「来月はこのメーカーから新シリーズが出る!」
「あの監督が遂にあの女優を撮る!」
「元某メーカー監督が新レーベルを立ち上げた!」etc…

学生時代、エロビデオ屋でアルバイトをしはじめ、いわゆるアダルトビデオ業界のハシクレになった。
毎晩、サンプルビデオが流れるモニターから漏れる喘ぎ声と、入荷してくるあられも無い姿をした女性のDVDジャケットに塗れて小遣いを稼ぐ。 品出しやレジ打ちの合間、メーカーやレーベルの販促広報誌や、オレンジ通信などのAV情報誌を読み漁る日々。
アダルトビデオ業界の動向を追いかけながら、新作サンプルをチェックし、推し作品を面陳しポップを書いたりしていた。

アダルトビデオを選ぶ時、僕も最初はタイプの女優の作品を選んでいたが、次第に変わっていった。 好みの女優ものより、メーカーや監督、撮り手サイドの企画力や技術力が高いと感じる作品の方が、自分の琴線に触れるエロい作品が多いのだ。 ジャケットを見て、新人女優をかわいいと思っても、中身を見ると修正されまくってガッカリみたいなものは山ほど存在している。 また、そうでなくともその女優のポテンシャルを引き出せていない作品が多い。 5、6チャプターで120分ほど、2、3カラミ、トータル6ヌキというベタなフォーマットをコスっているだけの、この女優で撮ってりゃ売れるだろ? 的ないかにも「アダルトビデオです」みたいな作品ほどつまらないものはなかった。(確かにタイプの女性のあられも無い裸を拝めるだけで、満足だという意見は分からなくもないが)

元々ものづくりに興味があった僕は、女優のインタビュー記事より、監督のインタビュー記事やブログを追いかけるようになった。 監督がどういう性癖でどういう思考回路で、その作品を撮ろうとしたのか、目の前にいる女性を独自の視点で捉え、どう表現させるか、カメラでどう切り抜くのか、熱く語られたその記事を読んでいると僕もいつかこの人達のように人を魅了してしまう作品が撮りたい、そう思った。

次第に、推しの女優が出ている作品ではなく、撮り下ろしのシリーズものが好きになった。 いわゆる「フェチもの」や、ピンポイントに秀逸なキャラ設定させた企画ものを手に取るようになった。

数タイトル続いているシリーズや、それに特化したレーベルの作品は、監督や撮り手が得意としているジャンルや手法を用いていて、どの女優でも自分の世界に惹き込み、その女優の良いところを上手く映し出せていることが多い。 タイプの女性ではないけれど、かわいいな、綺麗だな、エロいな、と思える女優が増えた。
すると、「自分の好み以外はかわいくない」ではなく、どんな女性にもそれぞれかわいいところがあるんだなと思えるようになったのだ。 推しの女優の作品でハズレを引くより、趣味趣向や撮り方のグルーヴ感のようなものが合う作品に出会えた方が、素敵だと思える女性が増えてラッキーではないか? 頭の中だけはハーレムである。

フェチものと言ってもジャンルや撮り方の手法は様々で多岐に渡る。 ヘヴィーメタルのジャンルの様に細分化されていて一言にまとめることは難しい。 その行為自体に特化したもの、パーツに特化したもの、女性の容姿や年齢に特化したもの。 またそれがかけ合わさると何億種類のフェチが存在するだろう。 ただそこに、グッときてしまっているには必ず原因があるはず。 自分で〇〇フェチなんです、と言ってしまうほどの、思わず見入ってしまうその映像の中に、アナタを〇〇フェチたらしめる原体験を彷彿させる何かがあり、それに傾向していくことでアナタはよりアナタという強烈な人格になっていくのである。
人間の3大欲求とされる性欲が、人格形成に作用していないわけがない。 フェチがアナタを作っていて、アナタという格好たる個性、一個人を形成しているのである。 好みではないと思っていた女性をふと好きになってしまう、その瞬間。 その恋は、フェチが作用しているかもしれない。 ただかわいいと思った女性の性行為を眺めてするその行為より、自分のフェチに特化した作品でするその行為は、深層心理の奥底から駆り立てられた興奮なのではないか。

あの鬼才クエンティン・タランティーノがマンハッタンのレンタルビデオ屋で働きながら、名作レザボア・ドッグスの脚本を書いたように、大阪茨木のエロビデオ屋で働きながら、僕はこんな妄想を膨らませる。「いつしか日本のアダルトビデオ業界のクエンティン・タランティーノになれるのではないか?」と。
僕は儚い夢を見てしまった。

 

編集:白川 烈

白川 烈:絵本『やさしいて』発売中

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