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CULTURE

舞子と二胡と六角堂

CULTURE, MUSIC

北京遊学記を2回に渡り書かせて頂いたところで、今度は一応神戸発カルチャーマガジンの記事らしく、神戸の西の端、舞子の浜から明石海峡を臨んでたたずむ、移情閣 について紹介してみようと思う。第1回の「二胡との出会い」でも触れたように、私の二胡歴の最初期から今まで、ずっと関わってきた中華系異人館である。

二胡との出会い

出会い自体は二胡を始める遥か前、道路拡張工事による立ち退きで長田区の高取山の麓から垂水区の舞子の浜近くに引っ越してきた小学5年の頃。小学生にとって移情閣近辺のテトラポットだらけの海岸や広々とした松林の公園は格好の遊び場だった。

正式には移情閣という名称だが、地元民には六角堂と呼ばれて親しまれている。八角柱のってっぺんに屋根がのっかったような形で、横から見ると三面しか見えないために六角形と勘違いされてこう呼ばれる。大正4年(1915年)に呉錦堂という華僑の貿易商の別荘として建てられ、彼が支援した亡命中の革命家、孫文がしばしば逗留したことから、現在では「孫文記念館」としてゆかりの品が展示されている。

淡いグリーンの外観は、海辺の景色にも違和感なく溶け込んでおり、その後開通した明石海峡大橋が同じ色なのも、移情閣に想を得たのではないかと勝手に思っている。中に入っても素晴らしく、八角形をなす壁面それぞれに窓が穿たれ、窓ごとに淡路島、明石、須磨の各方角の違った情景が楽しめることから『移情閣』と名付けられた。

六角堂(移情閣)と孫文像

この歴史的建築物の3階が、かつての移情閣二胡同好会の練習場であった。内側のガラス戸を押し上げ、外側の鎧戸を開け放つと、海の音と潮風とキラキラした水面の光が一気に入ってくる。なぜか昔からずっと置いてある、中国の時代劇に出てくるような天蓋付きのベッドをよけて椅子を並べ、孫文さんの石膏の胸像が見守る中、響きの良い高い天井の下で練習をした。

移情閣は明石海峡大橋の建設という大工事に伴い解体、数百メートル離れた場所に移築された。壁紙も建築当初のものを再現したとかで金とグリーンが使われたとても美しいものに復元されている。解体前の1993年に兵庫県の有形文化財に、そして2000年の移築完了後、2001年に国の指定文化財に指定された。

主に消防法の理由だと聞いているが、現在この3階は一般公開されていない。二胡同好会の練習は近くのマンションの集会場を借りて行っており、移情閣で演奏するのは移情閣まつり等、孫文記念館のイベントの時だけになっているが、それでもこの歴史ある建物と穏やかな風景の中で二胡を奏でるのは大変嬉しい時間である。

私にとっては郷土愛にも近い六角堂への愛着から、ここ数年、勝手に「移情閣組曲」なるものの作曲を続けている。同好会のための二胡の重奏曲として作り、時々メンバーに弾いてもらったり、アレンジし直して自分で演奏したりしている。現在、第1番から第7番までできており、とりあえず10曲の組曲にしたいと目論んでいる。タイトルは以下の通り。

  1. 「六角堂ジグ」
    (八角形だけど六角形に見えるからというだけの理由で6/8拍子で作った。)
  2. 「霧の明石海峡
    (霧がかかった明石海峡の風情も格別。)
  3. 「イカナゴ狂騒曲」
    (舞子の民のソウルフード、イカナゴ解禁後の狂乱を描く名曲。)
  4. 「空の架け橋」
    (移情閣付近から明石海峡大橋を見上げると空を渡る橋に見えます。)
  5. 「明石だこのマーチ」
    (明石海峡名産のタコが主役!テンポ88。)
  6. 「桜鯛の夢(甘いワルツ)」
    (ゆらゆら揺れる海藻を縫って泳ぐ明石鯛の薄紅色にきらめく鱗。)
  7. 「関守の詩(千鳥のサンバ)」
    (百人一首に歌われる須磨の関守の、千鳥に破られる眠りとその苦悩。)

コロナ禍で今年の移情閣まつりは孫文記念館史上初のオンライン開催となった。それに合わせ、上記の中から2番と7番の2曲をミュージックビデオにして提出した。コロナ下での有り余る時間を注ぎ込み、周囲からは間違えた助成金の使い方、とまで言わしめた渾身の編集をご覧いただければと思い、リンクを張っておく。

「第2番 霧の明石海峡」

「第7番 関守の詩(千鳥のサンバ)」

また、同じく今年の10月11日には孫文記念館のご好意で移情閣の3階から無観客の配信ライブを行った。アーカイブに残しているので、舞子の民の愛する六角堂の雰囲気を感じ取っていただければ幸いである。

「鳴尾牧子配信ライブ from 移情閣」

今後もまた編集の腕を磨いて動画の作成を続けようと思う。次は2015年作曲当時からわずか5年で漁獲量が激減したイカナゴが、来年は少しでも増えてくれることを願い、春先の解禁日までには「イカナゴ狂騒曲」を仕上げたいと考えている。

桜鯛の妖精たち(移情閣二胡同好会)