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CULTURE

Hip Hop ~ Over The Crossover

CULTURE, MUSIC

もちろん、昔ながらの暮らしを懐かしんで、あの頃に戻りたいと思うことがある。しかし歴史はそれを許さないだろう。
― ジョン・F・ケネディ

今の時世にこそ当てはまる言葉のイントロダクションで始まる

ネルソン・ジョージ著書
Hip Hop America

JAZZを軸に普段から様々な音楽に触れていますが、今回はHIPHOPについて、私が感じている事などを含めて少し記していこうと思います。あまりHIPHOPに縁のない方にもできれば目を通して頂ければ幸いです。

では、

『何を基に生まれたの?』
  • 1970年代のニューヨークとその周辺に住む、アフリカ系・アメリカン、カリブ系・アメリカン、ラテン・アメリカンの若者たちによって育まれた、様々な形態をもつカルチャーの寄せ集めであり、音楽、ダンス、グラフィック(絵画も含む)、ファッション、そして犯罪等々に及ぶモノ
  • 1960年代より本格的になされた公民権運動によるマイノリティ(社会的弱者、今回の場合は有色人種)によるアイデンティティ(自分は何者であるかという意識からの自己認識)
  • 1919年~1930年 ハーレムルネサンス(アフリカ系・アメリカン独自の芸術復興)時のモダニズムとコラージュアートを彷彿させられるサンプリング

此らを基に当時の若者のエネルギーが生み出したのは間違いない。

このHIPHOPカルチャーのマスターピース、映画『WILD STYLE』から伺える事でしょう。

『ギャング、暴力を奨励しているの?』

人っていうのは、普通、その出自と生い立ちの産物なのだ。その生い立ちのなかで培った絆、そこで強いられた掟、そうしたものが全て自分のその後の人生に影響を及ぼすものなのだよ。もちろん、そこでそうしたものを拒否することもできる。そこで「よし、もうこれでこの掟とは、さらばだ、俺はもうあの世界には住んでいない!!」と宣言することもできる。でも、そういった掟が出来上がった理由、そして人々がそれに従って生きている理由、それは強烈な教訓として残るもの。で、その最も強烈な教訓とは、つまり、誰もが生き延びたいということ。結局、こういうものは生き延びるためのもの。人という形でも、聖なるものとしてでも、肉なるものとしてでも、そこで繰り広げられる闘争っていうものは生き延びるためのものであって、そのためには手段を問わない。そいうものは、人が一生抱え続けるもの。
マーティン・スコセッシ、1990年

ロバート・デ・ニーロ や アル・パチーノも出演した映画の有名な監督の言葉。

彼の作品はギャング・暴力を決して奨励しているのではなく、あるモチーフに焦点を当てて(それは暴力にまみれモラルとしては極端に捻れている)人間の深層心理に訴えるものであり、そういった目線で 2Pac(トゥパック)や N.W.A. などのレコードに耳を傾けると、過酷でいて思慮に満ちた、劇的に暴力を意図的にちりばめたパルプ・アートと取れるでしょう。

根底の「誰もが生き延びたい」を感じるのではないでしょうか?

『変わりゆく中、この先はどうなる?』

若いジャズ・ミュージシャンに聴いておくべき音楽を薦めて欲しい。
「J・ディラだね・・・ディラは全て聴くべきだ」
ロバート・グラスパー、2012年

音楽シーンをリードする彼の言葉。

彼らが若い時に耳にした音楽はまさしくHIPHOPであり、CLUBにて様々な音楽に触れてきています。

90年代から2000年にかけてのJ・ディラの作り出した

「よれて跳ねたビート、そしてトラックの構成、プログラミング」

それはリアルであり、まるで生演奏のようであり、革新的であった為、彼のメソッドはHIPHOPやネオ・ソウルだけに留まらず、ジャズ、ワールド・ミュージックなどに波及しました。

始まりは、音楽的理論もなく楽器をやらない人が、膨大なレコードを道具(楽器)として新たなレコードを作り、世に広めていったが、其れを聴く人の中には、理論の知識があり楽器もやる人たちもいた。

そしてそんな人が、サンプリングではなく生で演奏を行い、新たなレコードを作成しリリースする。(過去にサンプリングに対して訴訟があったり、ムトゥメがサンプリングを「音楽的死体性愛」と揶揄したりしていたが・・・)

カリビアンカルチャーやアフリカンカルチャー等が交わってきた事を横のクロスオーバー(地理、国)と捉えるならば、この様子は縦のクロスオーバー(時空、時代)と言えましょう。

『Hip Hop 〜 Over The Crossover』

幾多のクロスオーバーの延長
この先はどうなるのか?

ネルソン・ジョージは著書でHIPHOPの終焉で〆ています。(しかし1998年に発表された本なのでその後にエミネムが登場したりして、かなり状況が変わり終焉ではなく次のステージへ突入しています)

最初はカルトな人達のモノだったかもしれない。

しかし今やエンターテインメントの中核にも位置され、良いも悪いも含めて世界中に影響を及ぼしています。

HIPHOPカルチャーで育った人間がマーケットを引っ張り、きっちりと競争力をつけている事を目にする機会は珍しく無い、そして更に他のカルチャーとのボーダレス化はますます進んでいます。

クロスオーバーの延長にはHIPHOPというカテゴリーを越えて(HIPHOPだけでは無く他のカルチャーも同様に)、

「どんな人が行っているのか?」

今以上に其処にFOCUSされるのではないでしょうか。

参考文献
Hip Hop America」原著 Nelson George
ハーレムの熱い日々」原著 吉田ルイ子
Jazz The New Chapter」SHINKO MUSIC MOOK