「音談るつぼ」#10 ジャズ研飲みで、私と。その3
仲間と音楽談義しながらお酒を酌み交わすなんてこともしにくい昨今。 じゃぁ気分だけでもってことで、「ジャズ研の学生が、だらだら飲みながらしそうなジャズの雑談」をお届けします。 ぜひお酒やお茶を片手にゆるっとどうぞ。 私も呑みます。
「走る」のは必ずしも悪いことではないのだ。
名盤にも「走った」演奏が収められている。
演奏していると、いつのまにかテンポが速くなっちゃうことがある。「走る」というやつです。 一般的に、緊張しているときや、「練習してきたフレーズをばっちり演奏してやるぞ」と意気込んで周りの音が聴こえなくなったときに起こりやすい現象なので、走っちゃうのはあまり良くないとされている。
が、意外にも名盤とされるアルバムにも、走った演奏は収められているのだなぁ。 個人的イチオシは、ブルー・ミッチェル(tp)のアルバム「BLUE’S MOODS」に収録されている『I’LL CLOSE MY EYES』です。 駆け抜けてます。
Blue Mitchell / BLUE’S MOODS
1. I’LL CLOSE MY EYES
2. AVARS
3. SCRAPPLE FROM THE APPLE
4. KINDA VAGUE
5. SIR JOHN
6. WHEN I FALL IN LOVE
7. SWEET PUMPKIN
8. I WISH I KNEW
RICHARD “BLUE” MITCHELL(tp)
WYNTON KELLY(pf)
SAM JONES(b)
ROY BROOKS(dr)
試しに「I’LL CLOSE MY EYES」を聴きながらメトロノームを合わせてみます。 出だしのテンポは170BPMちょっとくらい。「ちょっと」ってなんだよ、とお思いでしょうが、ジャズのリズムは伸び縮みするので、ぴったりメトロノームに合ったと思えば、ややずれる、また合う、みたいな具合なのだ。 だから、テンポは「170ちょっと」。
つまり、もともと軽快に始まった曲ではあるんですが、演奏は時間の経過とともにどんどん軽快さを増す。 ラッパソロ、ピアノソロときて、ラッパがバックテーマ前にもう一度吹く1コーラスのソロ時は、もう210BPMくらいになってる。 出だしとの差、40。 エ、40?
と言ってる間にも二度目のラッパソロはずんずん進む。 バックテーマを見据えて少しは落ち着くか、どうだ? と思うが、一向に失速せず、むしろサウンドはノリノリのまま、210BPMちょっとでバックテーマに突入。 ラッパとピアノが美しく歌うものの、テンポは駆け足のまま、リットがかかって、おぉっとエンディングだ。 ふぅ。
・・・
「I’LL CLOSE MY EYES」のトランペットバージョンとしては、おそらく最も有名なバージョンではなかろうか。 アルバム自体、多くの人に愛される名盤で、実際に「人生の半分をこれを聴きながら過ごしている」という方を知っているし、耳コピした方も少なくないと思う。 私もしました。しかし不思議と、演奏が走っていることについて、指摘する声を聞かない。 どなたも言わない。 これはたぶん「テンポアップ込みで、名演」だからだ。
キモは、ベースではないかとにらんでいる。
少々テンポがあがっても、前へと進め。ただし、走らず「ウォーキング」で。
ジャズのベースが、一歩ずつ足を踏み出すように前へ前へと推進力を持って刻まれるから「ウォーキングベース」と呼ばれることはみなさん、ご存じでしょう。
友人ベーシストが私にもわかるように超シンプルに説明してくれたところによると、このウォーキング感を出すためには、ベースはほかの楽器よりほんのわずか、前のめりに音を出すつもりで演奏するといいそうだ。 理想は「拍のドアタマ」という人もいれば、「拍のドアタマよりさらに、ちょっとだけ速く弾く」という人もいて、実際の刻み方は好みでわかれるようだが、総じてベーシストさんは「拍のアタマ」にシビアとのこと。
以上を踏まえて、もう一度「I’LL CLOSE MY EYES」を聴いてみます。 いやぁ、見事にベースがウォーキングしている。 ベースのサム・ジョーンズさん(なんとなく「さん」付け)は、拍のアタマより少し速めに出るタイプであるように聴こえる。 大胆にグイグイいく。 おかげでベースに先導されるように、テンポは少しずつアップしていく。 つまり、テンポアップの要因はベースにあるように、私には聴こえる。
だが、この大胆なベースの推進力は、聴いてて気持ちいい要因でもあるんだよね。
まずベースが力強い音で前へ前へと刻んで先導し、ドラムの小気味よさが加わり、さらにはラッパとピアノが美しく歌う。 みんなの推進力が同じところをめざして集約し、サウンドする心地良さといったら。
実は書き始めたとき、「テンポキープを気にするより、大胆にノッてしまう方が格好いい」といった生演奏の妙を記事の落としどころにしようと思ってたんだけど、しょーもなかったわ。 そんな誰でも言えるようなフレーズなんぞ、そのへんに置いておけ。 とりあえず聴こうぜ。 名演なのだ。
・・・
ちなみに、「I’LL CLOSE MY EYES」のテンポを音楽の速度記号に当てはめた場合、出だしは「Vivace(ヴィヴァーチェ)」、中盤からは「Prestissimo(プレスティッシモ)」あたりに相当するらしい。 クラシックやロック、ポップスでこのくらい変化をつけちゃうと、やっぱり聴き手にとっては「走ってる」印象になると思う。 ジャズだから、テンポアップも(場合によっては)推進力として歓迎されるのだ。 ジャズ、すごいな。
かわださやか LIVE予定
2022年1月13日(木)Live & Session @ Cafe & Bar Lamp
1stはスタンダードジャズを中心に演奏するライブ、2ndはセッション。 譜面や楽器ご持参でお気軽にぜひ。 聴くだけの方も歓迎です。
- 日時: 2022年1月13日(木)開場19時、開演19時30分
- 料金: 入場無料・チップ制(要オーダー)
- 場所: Cafe & Bar Lamp(大阪市中央区松屋町4-18実和ビル3F)
- 出演: かわださやか(tp)、松岡徹(gt)、西尾寛之(wb)
2022年1月18日(火)時空∞即興 @ ZAC BARAN
譜面なし、打ち合せなし、しばりなしの即興パフォーマンス。 3人編成、2人編成の2グループが出演します。
- 日時: 2022年1月18日(火)開場18時、開演19時30分
- 料金: 1,000円+オーダー
- 場所: ZAC BARAN(京都市左京区聖護院山王町18メタボ岡崎B1F)
- 出演: 村上理恵(dance)、かわださやか(tp)、伊藤誠(ts)、Kei-k(as)、あたしよしこ(打撃gt)
2022年2月27日(日)ASASHIO LIVE @ CELLAR BAR KENT
2管+ウッドベースのジャズトリオ。 2018年の結成以来、隔月でレギュラーライブを行なっています。 2ステージ全力でがっつり演奏。
- 日時: 2022年2月27日(日)開場14時、開演14時30分
- 料金: チップ制(要オーダー)
- 場所: CELLAR BAR KENT(大阪市中央区道頓堀2-4-2 B1F)
- 出演: かわださやか(tp)、重谷ありさ(ts)、西尾寛之(wb)