「音談るつぼ」#1 あたしよしこさんと。
関西に移り住んで一番よかったのは、たくさんの魅力的な人と出会えたこと。
私の場合、人とはたいてい音楽やライブを通して出会う。
『あたしよしこ』さんもそのひとり。
よしこさんは、「インプロ」の人だ。
「インプロヴィゼーション(Improvisation)」、略して「インプロ」と呼ばれる即興表現のライブが、関西では結構ひんぱんに開催されている。
インプロのライブでは、音楽、芝居、踊り、映像といったさまざまな手法を用いるアーティストが垣根を超えて集い、コラボすることが多い。
ステージ上でお互いに反応しあい、場の空気感をあやつり、表現のうねりみたいなものを創り上げていく。
独創的な猛者が乱れ遊ぶインプロ界隈で、よしこさんは一際、強烈な存在感を放っていた。
50年計画「脳想」
踊り、歌、作曲、作詞、衣装づくり、美術、脚本、芝居など、よしこさんが手掛ける表現は多岐にわたる。
何をされている人ですか?と聞かれたら
「表現者です」
と答えるそうだ。
これらの表現活動はすべて、ひとつの目的のもとに行われている。
「脳想(のうそう)」。
「脳想」とは、脳と心が日常で感じる想いの種を、無限大に表現するパフォーマンスのことで、まさにあたしよしこワールドを体現しきるものなのだが、そんな壮大なパフォーマンスが「10年やそこらでカタチになるわけがない」ということで、よしこさんは50年計画を立てているそうだ。
現在行っている数々の活動は、「脳想」へ向けての準備。
そこで得た経験や力を注ぎ込んで、年に一度開催している「脳想」のパフォーマンスを、50年かけて深めていきたい、積み上げていきたいというのがよしこさんの思いだ。
いろんなことに手を出しすぎ、と意見してくる人もいる。
「でも20年、30年とやっていけば、自分に向いていないものは自然と削ぎ落とされて、どれかは残り、きっと大成する。そうなればいいなと思って」
よしこさんはとても長いスパンで、未来を見ている。
会社員から表現者へ。「できないから、やる」
生まれながらのアーティストという印象があるが、よしこさんが表現を始めたのは30歳をすぎてから。
それまでは会社員だった。
「スノーボードやったり、同僚と飲み会したり、情報誌を見てランチに行ったり。趣味といえば買い物とか、おいしいごはんを食べることとか」
ごく一般的な生活を送っていたよしこさんは、ライブに行ってももちろん客席にいた。
当時は見るだけ。
ステージ上で表現する人たちは別世界の、特別な人だと思っていた。
やがてその人たちの近くに行きたいと思うようになり、
「それで、会社をやめたんですよ」
と、よしこさんは随分さらりと語った。
社会人として、いわゆる「普通」の枠から外れること、また演者としても、未経験の状態から表現の道へ入るのはとても勇気がいると思うのだけど、
「できないと思うからこそ、やろう」
とよしこさんは考えたそうだ。
おもしろいことを聞いた。
「できないと思う」状態から、「やる」という結論に至るまでの過程で、よしこさんは自分のなかの自分と話し合うという。
「自分会議」と呼んでいる。
4人くらいで行う「自分会議」
まず1人目は、演者のよしこさん。
我々が見ることのできる、舞台でパフォーマンスをしているよしこさんだ。
以前、「ギターを使って、ソロでパフォーマンスをしてほしい」という依頼が舞い込んだとき、演者のよしこさんは「できない、やりたくない」と尻込みしたそうだ。
ギターは弾けないし、ひとりきりで30分ももたせられない。
ムリムリ、いやだ、と。
しかしここで2人目のよしこさんが現れる。
2人目のよしこさんは演出家で、脚本を書くことができ、ストイックな人なのだそうだ。
演出家よしこさんは、「それも経験だよ」「やめるのはいつでもできるよ」と諭す。
ほかに、モノを作る造形担当のよしこさんもいて、3人で話し合う。
しかしもっとも大切なのは、そんなよしこズの話し合いをハタから見て、バランスを取る役目の、4人目のよしこさん。
4人目のよしこさんは、もつれた話し合いを俯瞰で見て、意見をまとめる役目をするという。
また4人目のよしこさんは常に冷静で、たとえば即興パフォーマンス中、忘我の極みにいるときでも、公演の残り時間や段取りをきちんと把握している。
なるほど聞けば、「自分会議」とは実に便利で頼もしく、自分をプロデュースするのにもってこいの方法だ。
誰の中にも「天使と悪魔」や「心の声」は存在するけれど、よしこさんの「自分会議」はその進化系かもしれない。
ちなみに前述のギターのパフォーマンスでよしこさんは新境地を切り開き、最近では芝居の音楽担当として、ギターを携えて舞台にも出演されている。
日々、表現の種を蒔く
よしこさんにとって、生活のなかで感じることはすべて、表現の糧になりうる。
もうすべて。
食べたごはんのことや外に出かけたようなことはもちろん、もっと些細な自分の手や足の感覚など、毎日の小さな繰り返しのなかにも発見があり、感じるものがある。
それをよしこさんは
「毎日、朝起きて目を開けたら、種を蒔いているようなもの」
と言う。
よしこさんが言うと、確かに種から表現の芽が出て、するすると茎が伸びていく様が目に浮かぶから不思議だ。
だいたい、よしこさんの話す言葉はなんだか素敵だ。
この記事を書くために、よしこさんには改めてお話しする時間をいただいたのだけど、会話のはしばしに
「一番小さい踊りは心臓の鼓動」
「お腹に耳をあてると水の音がして、体の中にも音楽があることがわかる」
「『私』という表現者がどこかでうまく泳げるように」
といったそのまま詩になりそうな、感性豊かな視点の言い回しがたくさん出てきた。
よしこさんは自分の感性を閉じ込めないですむ生き方をするために、表現者の道を選んだのかもしれない。
ご自身も会社員時代より今の方が、心も脳もよく使い、喜怒哀楽もはっきりしていて、生きているという実感があるそうだ。
よしこさんは、よしこさんらしい言葉で言う。
「自分は『あたしよしこ』の唯一のファン。だから私ひとりくらいは、『あたしよしこ』という表現者が花開くと信じてみよう。自分だけは自分を見捨てずにいよう。
可能性はゼロじゃない。10年やそこらやっただけじゃぁ、まだまだわからない。『あたしよしこ』という人を、信じてあげたい」
よしこさんにとって、表現することは、生きることだ。
(取材 2020年11月)
あたしよしこ
2006年から、自身で「脳想」というジャンルを立ち上げ、パフォーマンス活動を開始。歌う・踊る・語る・演じる・描く・書く・切る・縫う、などなどあらゆる手段を駆使して、自己の世界を表現するアーティスト。彼女自身の声と身体だけでなく、彼女が手がけた衣装や舞台美術、人形といった造形物も、彼女の表現世界においては重要な役割を持つ。
自身が作・演出を手がける作品を「脳想パフォーマンス」と名づけ、劇場やライブハウス、ギャラリーや寺院など、さまざまな空間にカラフルな夢幻世界を現出させている。
「彗星ミトコンドリア」「昭和どんちゃらリン」ではパフォーマンスとボーカルを担当。「即興の総合芸術」シリーズ、「ayoyo(アヨーヨ)」では踊りを担当する。
「脳想(のうそう)」とは?
脳と心が日常で感じた想いの種を無限大に表現し、言葉にできない心の色、脳の想いを作品に昇華するパフォーマンス。
演劇あり踊りあり歌あり美術ありの「あたしよしこワールド」。
● 脳想パフォーマンスPV
● 脳想パフォーマンス「美化」
● 12月5日脳想パフォーマンス「累嘘の除月」宣伝動画
あたしよしこ今後の予定
■ 2020年12月5日(土)
【脳想パフォーマンス「累嘘の除月」~かさねウソのじょげつ~】
場所/法然院(見晴らしの間:京都市左京区鹿ヶ谷御所ノ段町30番地)
時間/開場18時30分 開演19時
料金/前日2500円 当日2800円 *限定30名
作・演出・舞台美術・衣装/あたしよしこ
物語舞手/あたしよしこ、宮崎学
物語演奏/宮部らぐの、伊藤誠
スタッフ/gim・mick、小松バラバラ
<WEB予約>
カルテットオンライン
https://www.quartet-online.net/ticket/nousou4444
※予約フォームにしたがって、必ずメールアドレスをご入力ください。
お問い合わせ/Atashi4444@yahoo.co.jp
■ 2020年12月12日(土)
【~映像とおどりと音の即興総合芸術~】
場所/Annie’s Cafe(京都市伏見区深草下川原町51-4)
時間/開演19時30分
料金/チャージ2000円(要オーダー)
<出演>
・杉浦コズエ
・コヤマエイジ(映像)+あたしよしこ(おどり)+哲太陽(ベース、ドラ)+長野雅貴(ギター・サウンド)
■ 2020年12月19日(土)
【彗星ミトコンドリア企画@京都深草アニーズカフェ】
場所/Annie’s Cafe(京都市伏見区深草下川原町51-4)
時間/開演18時30分
料金/チャージ1500円(要オーダー)
<出演>
・彗星ミトコンドリア
・AUX
・昭和どんちゃらリン
・游魚&ちあきひこ
■ 2021年1月25日~1月31日
【あたしよしこイラスト展「指想画」~指から流れる想いのままに~】
場所/EARTH(大阪市西成区太子1-3-26)
時間/12時~24時
■2021年1月31日
【~即興と弾き語りと絵とおどり~】
場所/EARTH(大阪市西成区太子1-3-26)
時間/19時~
料金/投げ銭
<出演>
・あたしよしこ(おどり、ライブペインティング)
・石井与志子(踊り)
・福田展博(G、弾き語り)
・游魚(G、弾き語り)