「音談るつぼ」#6 ジャズ研飲みで、私と。
緊急事態宣言下で感染者数も増加傾向にある今日この頃。 人と会って話すことが難しく、かといってリモートではいまいち盛り上がらないので、いつもの音談はお休み。 かわりにジャズのお話を書きたい。 コンセプトは、「ジャズ研の学生が、だらだら飲みながらしそうなジャズの雑談」です。 ぜひ、ゆるっとお酒やお茶を片手にどうぞ。 私も呑みます。
「クリフォード・ブラウン」が「うまいうまい」と褒められた?
Clifford Brown
THE BEGINNING AND THE END
1. I COME FROM JAMAICA
2. IDA RED
3. WALKI’N
4. NIGHT IN TUNISIA
5. DONNA LEE
クリフォード・ブラウン の最初のレコーディング音源(1952年3月21日)2曲と、亡くなる前夜のセッション音源(1956年6月25日)3曲が収録された有名なアルバム。「始まりと終わり」というタイトルが、若くして亡くなったクリフォード・ブラウンの不運をうまく表してて、心にずしんとくる。
「END」のうちの1曲「NIGHT IN TUNISIA」では、クリフォード・ブラウンのピックアップを聞くことができる。 テーマの後、たっぷり4小節分、バックがとまってラッパだけでソロを吹く、めっちゃ見せ場。 期待に違わずクリフォード・ブラウンのソロは、直前のインタールードからオクターブを駆け上って格好良く着地する、素晴らしいフレーズだ。
だが今、聞いてほしいのはラッパではない。 ピックアップを吹き終わった後の、お客さんの声なのだ。 ラッパのフレーズが着地して、にわかに観客がはやしたてる。 そのときこう言ってるお客さんがいるのだ。
「うまいうまい」「うまいねぇ」(拍手)
いやほんとです。 はっきり「うまい」って言ってるんですって。「うまい」と聞こえる英単語はなんなのか。 また、「うまい」のみならず、「うまいねぇ」って、なんなのか。 わかる方がいらっしゃったら、ぜひ教えていただきたい。
さらに、あらためて聞きますと、タイミングが絶妙なんだよね。「うまい」の声は、ハイハットを踏む偶数拍子(2拍目と4拍目)になぜか合っている。「ねぇ」も含むと、「ウンタン、ウンタン、ウンタンタン」。すごくおさまりのいいリズムだ。
聞きどころはほかにもある。 クリフォード・ブラウンがハイトーン音域に突入すると「イ゛エ゛~~~」。 ハイトーンで怒涛の高速タンギングを披露すると「エ゛ーオ゛ーーー」。 お客さんがいちいち濁点のついたダミ声で唸りまくり。 笑えるのでぜひ聞いてほしい。 いいお客さんなのだ。
セッション自体は、フィラデルフィアの楽器店で、地元のミュージシャンと行われたものだったそうで、クリフォード・ブラウンと初対面でソリが合わなかったのか、天才の演奏に気圧されたのか、それとも、ゲストを立てるアイドルコンサート的なノリだったのかわかりませんが、基本トランペットが見せつけて、バックは刻んでるだけのスタイル。 ピアノの合いの手もほとんど入らないほど、インプロ要素は少なめ。 でも20代の若者がやって来てこんなキレッキレの演奏をするんだもの、会場はめっちゃ盛り上がったに違いない。 お客さんがいい味出してるのが、その証拠だ。
セッションを終えて翌26日の早朝、クリフォード・ブラウンは車でシカゴに向かう。 6月末から7月にかけて、シカゴの「ブルー・ノート」に出演する仕事が入っていたそうだ。 だがシカゴに到着することなく、自動車は土手に激突。 享年25歳。 1951年秋にジミー・ヒース楽団に参加することで、プロミュージシャンとしての一歩を踏み出したので、計算するとクリフォード・ブラウンのプロ活動は実質5年ということになる。 たったの5年。 なのに、ジャズ史に輝く唯一無二のトランペッターとして、今もさまざまなプレイヤーに影響を与え続けている。
亡くなった6月26日は、クリフォード・ブラウンの奥さんの誕生日であり、かつ結婚記念日でもあったそうです。 運命の皮肉とか、天才の短命についてとか、いろいろ考えちゃうアルバム。 そしてそんな深い思考のかたわらで不謹慎ながら、お客さんがおもしろいアルバム。 音楽仲間との酒のおともにぴったりかと。