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Be Here Now / バンコク在住ギタリストの日常 ②

MUSIC, LIFE STYLE

Local market at Liberty Plaza

バンコクに来てからずっと使っていたパソコンが壊れちまったもんで、取りあえずiPhoneで音声入力を使って書いているが、これがなかなかに鬱陶しい。旧人類にはキーボードが必需品だ。

ここ3ヶ月ほどタイ人の絵描きの友人が「金がない金がない」と嘆いて何度も小銭ばっかりねだるもんで、「なんやねん。何回も小銭貸すのがめんどくせえ。どういう状況やねん」と聞いたら「彼女が部屋にあった金を全部持って逃げた」と言う。ある日部屋に帰ったら彼女の姿はなく金目のものと金がなかったらしい。申し訳ないが悲惨すぎて爆笑してしまった。彼は大手ビール会社のデザインコンペに作品を出すようなプロの絵描きで作品は仏教的で微細でとても美しい。コンピューターは使わずすべて手書きだ。何度か彼が絵を描いているところを見たが、年季を感じる見事な腕前だった。

Red bus at soi Thonglor

彼は今年の初めにパトロンから大きなギャラリーをやる計画を持ち掛けられて、準備をしていた。まもなく開店と言うところでコロナによる国境封鎖で観光客がいなくなった。するとパトロンは手のひらを返してプロジェクトを白紙に戻し、彼はそれまで準備にかかった金を背負わされた。はっきりとした契約を交わしてなかったのが彼のミスだが、契約を交わしていたところでどうなっていたかはわからない。タイの金持ちは怖い。シビアな階級社会であるこの国では彼らは絶対的強者なのでやりたい放題だ。ついこないだも7年ほど前にひき逃げをして警官を死亡させた御曹司が無罪になっていた。御曹司に不利な証言をしていた証言者が事故死するなんてわかりやすいオチまでついていた。

さておき、そんな仕事上の一大事の後で今度は私生活のパートナーが金を持って逃げたわけで事態は最悪だ。とりあえず俺は彼のデザインをプリントしたTシャツや小さな絵なんかを買ってみたり、元々細身の彼がさらに痩せて骸骨みたいになっていくもんでメシ代を渡してみたり…。バンコクに来てから俺にも完全に食い詰めてた時期があって何日も飯も食えない状況に陥ることがあった。その時に周囲の友人に助けてもらったことを思い出してそうするべきだという気分になったのだ。彼は大きなコンペに作品を出して結果を待っている。「グランプリを取って連絡するからな!」と言っていた。カッコええがな。これで本当にグランプリを獲ったら劇的やなぁ…と関係ないはずの俺もちょっとソワソワしながら結果を待っているのである。

Saen Saep Canal

そんなわけで、以前のように観光客が入国できるようになるまでは、バンコクで日々働いて暮らしている皆さん、特に個人商店はヒジョーに厳しい状況だ。俺は相変わらず全然金を持っていないが、とりあえず飯は食えているのでまだマシなのだ。仲の良いタイ人女性のJoyは、「あいつらが金がないのは単に働かないからだ。怠けてるだけだ」と言い切っていたが、現況を考えると仕事をさがすのも難しいだろう。それに、いきなり自分の仕事を取り上げられて別の仕事をやるというのはなかなか難しいもんがあると思う。働き者でパワフルかつ男らしい性格の彼女は許せないようだけど、プリプリと怒りながらそれでも周りの人間に食事を与えお金を貸して友人達のケツを叩く姿にタイの女性の母性や強さを感じたりする。

コロナに関係なく伝統的にタイの男は働かないので有名なのだ。もちろん真の怠け者もいるとは思うが、世界一貧富の差が激しい国なので労働者の給料は笑うしかないくらい安いし、何より彼らは人に使われるのが大嫌いで不自由を嫌う。それが1番大きい理由かもしれないと彼等を見ていると感じる。俺も人に使われるのは嫌で仕方がない我儘男なので、安い金で使われるくらいなら怠惰にバナナでも食ってダラダラ生きたくなる気持ちはよくわかる(あかんがな)。 ここには冬が無いので寒さで死なないし、頑張ったところでほとんどの利権は一握りのハイソ(上流階級)が握っている。相続税が無いので代を追うごとに彼等だけがひたすら肥大化していく。子供の頃から頭を押さえつけられた一般庶民は夢を見るのすら難しい。階級社会ってのは実にハードなのだ。そういう意味では日本はいい国だ。貧乏でもアホでもとりあえず平等だと言われて育つので夢は持てる。実現するかどうかは別の話だけどね。

Kota amatuti Taki solo at JAM 2019

バンコクはまだまだ厳しい状況だが少しずつは動き出している。先週末は即興ユニット[ Woot Root ]の相方のドラマーで絵描きのJoeに呼ばれてプライベートパーティーで演奏してきた。参加していたのは異邦人ばかりでいろいろ難しい状況のやつもいるみたいだったけど、彼らは明るい。久々の乱痴気騒ぎ。日本を出てから「俺はなんて真面目なんだろう」と何度も思った。日本では「なんて不真面目なんだろう」と思ってたんだけど…。

10月は現時点で上記2本のライブが決まっている。2カ所とも以前からなじみのライブスポットだ。厳しい状況に負けず健在であるだけでも素晴らしい。

良い演奏をしてバンコクのミュージシャンの友人たちと久々の再会を祝したいと思っている。次はライブレポートかな。ではまた次回。