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Summer of Soul (…Or, When The Revolution Could Not Be Televised)

CULTURE, MUSIC

サンダンス映画祭でドキュメンタリー部門での審査員大賞、観客賞のW受賞された映画が今回のタイトルですが、観終わった後の余韻が凄いので色々と広く感じた事を綴っています。 まだ観ていない方、そして観られた方共々に是非ご覧ください。

私はこの映画の存在を知ったのは去年のとある日です。 ジャズが凄く好きな事から、その成り立ちを色々と調べている最中に一つの疑問が浮かんだのです。 1955年のとある事件をキッカケに動き出した公民権運動の流れの中、当然ブラック(アフロ系)をルーツとする音楽の変動がありました。 そして其れらの音楽を人に伝え、共有する為の場、いわゆるフェスについてどうも腑に落ちない点があったのです。 ワッツ・タックス、それは1972年の出来事です。 時系列で行くと1965年にマルコムXが暗殺され、そしてワッツ大暴動、1968年にはキング牧師まで暗殺、同年にはロバート・ケネディが狙撃され翌日に死亡・・・このブラックを背景とする人達の精神的支柱の喪失と怒りを抑える、鎮魂の集いとなるフェスが1972年まで行われなかった事に対してです。 つまり時間がかかり過ぎている点です。 確かにウッドストックが1969年に行われていますが、公民権運動の流れには此れは当てはまらない・・・

だから、この映画の存在を知った驚きと共に長年の疑問がようやく明らかになり「やはり存在したか!」と1人腹落ちし、此れは是が非でも観に行くと決めていました。 そしてもう一つ、驚きの事実もこの時期に発覚しました。 何と日本人で、リアルタイムにこのフェスを観た人が居るとの事です。 その方はJohnnyさんと呼ばれる大阪では有名なファンクマスターDJでありブラックカルチャーの造詣が深い方でもあります。 残念ながら2017年にお亡くなりになられているので、その直接観た視点からの映画を鑑賞した後のお話しを聞けないのは非常に残念です。

余談ですが「ハーレムの熱い日々」(著者:吉田ルイ子)は、この著者がハーレムに1962年に移住しカメラにハーレムの情景や、そこで生活する人を収めながら記されたルポタージュです。 しかし1968年にハーレムを離れています。 もし1年長く滞在されていたならば間違いなくカメラにこの情景が収められこのルポタージュにも記されたに違いないでしょう。

1969年夏、6週に渡り延べ30万人以上の観客を集めたフェスがハーレムで行われた。 其れは記録され、一度はブラック・ウッドストックとしてその映像は売り出されようとしたがままならず、世に発信されない状態でこの記録映像は持ち主の地下室に眠る事となる。

時が経ち2016年、この映画制作者となるロバート・フィボレントは友人より、このハーレムでウッドストックと同じ頃に行われたフェスの噂を聞きつけ、この映像記録の持主を探し当てます。 そして後にプロデューサーとなる、デビッド・ディナースタインに見せて、この所有者に長編ドキュメンタリー映画としてこの映像を使用する話を進め、権利を獲得します。

監督候補の1番上には アミール “クエストラブ” トンプソン があり、奇しくも彼は1997年にこの映像の一部分を日本で観ていました。 そして20年後の2017年、上記の2人に、彼はこの映像記録を掲示され監督を依頼されたのです。

こんな風にこのプロジェクトは始まり、制作に入るのですが、最初はありったけの情報を詰め込み3時間35分程に仕上げたようです。 が、思い直し、2時間の映画作品と変貌させています。 結果、彼がHIPHOPアーティストとして培った経験が物語を伝える力となっています。 勿論、貴重な映像記録には感動と感銘がありますが、それ以上にHIPHOPというモノは、映画というフィルターで伝えたい事、伝えるべきメッセージを、ちゃんと網羅できる文化だと改めて知らされ、この映画を見終わった後、其れは大きな衝撃と喜びを受けました。

(ご存知の通り、音楽においてのHIPHOPはサンプリングによるコラージュアートというのが始まりです。 元々あるレコードのブレイクやフレーズを切り取り繋ぎ合わせたり、BPMを調整したり、その詩をライムさせたり、そのライムをフロウさせるなど、コラージュする事で違った音楽を創ります。)

記録映像という、まさに映像のレコードをサンプリングし、時にはその頃の時事ネタを差し込み(しかもそれについてこのフェスに来ていた人のインタビュー映像も!)、当時の出演者や、観覧した人へのインタビューも重ねています。 最初のシーンから最後のシーンの流れまでしっかり計算され、しかも作為的ではない。

この映画は沢山見処があり、是非其れ等を御自身の目で確認して頂きたいのですが、その中で特に、フェスのラストに向かう ニーナ・シモン が朗読する、The Last Poets のオリジナルメンバー、デビッド・ネルソンの詩からの、スライ&ザ・ファミリー・ストーン の歌「higher」で締める場面は、圧巻であり見処の1つです。 スライ&ザ・ファミリー・ストーンが、後半の頭に登場し一旦終わり、ラストで荒々しい印象のこの曲で、ニーナが唄う過激な内容の詩を、昇華させていてる事を感じられるのではないでしょうか?

Are You Ready
(poem by David Nelson, The Last Poets)

準備はいい?黒人のみんな
必要なことをする準備は?
黒人の男性たちは?
黒人の女性たちは?
準備はいい?
さぁよく聞いて

必要なら殺す覚悟はある?
心の準備はできている?
体の準備もできている?

白いものをたたき潰す準備は?
ビルを燃やす準備は?
黒人のみんな 本当に覚悟はできている?

美しき黒人たちの声を聞く準備は?
美しき黒人たちの心を感じる準備は?
常に黒人を愛する準備は?

黒人のみんな準備はいい?
変わる準備はできている?
とってもイケてる黒人にね
自分自身を変える準備は?
完全にね
自分自身を完全に完全に
完全に完全に完全に
本物の黒人になる準備は?
覚悟はできている?

(▲ スライ&ファミリーストーンのモノは実際の映画の映像とは違うモノを並べていますので映画での映像を確認して下さいね。)

クエストラブの選曲、選映像、サンプリングの妙、そして創造力に感服しております。

恐らくこの記事が掲載される頃、映画の上映は終了しているかもしれませんが、創作活動をなされている人達は観るべき映画なので、是非観て欲しいです。

参考文献
・MOVIE WALKER PRESS VOL.19(SEARCHLIGHT PICTURES issue)
・ハーレムの熱い日々~BLACK IS BEAUTIFUL(著者:吉田ルイ子)