様々な視点で情報を発信するカルチャーマガジン

  1. HOME
  2. PEOPLE
  3. 音談るつぼ #5「Crenshaw」のAKIさんと。
PEOPLE

音談るつぼ #5「Crenshaw」のAKIさんと。

PEOPLE, CULTURE, MUSIC

ライブ&セッションのお店として知られる「Crenshaw(クレンショウ)」が、5月7日、東大阪市に移転オープンした。 気軽に演奏ができる・聴けると界隈の人に愛されるスタイルはそのままに、街の音楽スポットとして新たな一歩を踏み出す。 店主はAKI(アキ)さん。お店を経営するかたわら、ご自身もボーカルとして活動されているのは知っていたが、お店を出す前はなんとダンサーだったという。 どんな人なんだろう。 移転オープンの機会に、AKIさんに話を聞いた。

始まりは家に流れているジャズだった。

AKIさんは、毎日ジャズが流れているような家に育った。 父親が音響にもこだわるジャズのヘビーリスナーで、物心ついたときからジャズが身近にあったそうだ。 ただ、少女時代のAKIさんはあまりジャズが好きではなく、とくに思春期は反抗心もあって「退屈な音楽」だと思っていた。 ジャズに反発するように1970年代は「P-Funk」やソウルが好きになり、1980年からはヒップホップに傾倒。

「でも今思えば、どれもジャズから派生した音楽で、切ってもきれない。 結局は、親の影響で音楽が好きになったのだと思う。 ちなみに今はジャズが大好きです」

そんなAKIさんが学生時代を過ごしたのは、ジョン・トラボルタ主演の映画「サタデー・ナイト・フィーバー」(1977年、米)が流行ったころ。 日本にもダンスブームがきていて、当時は試験が終わったらみんなで踊りに行くことがよくあった。 遊びで踊っているうちに、AKIさんの中で「ダンスの楽しさ」と、もともと好きだった「ヒップホップの格好良さ」が結びつく。 いつしかダンスは「試験後の気晴らし」以上の存在となり、踊ることにどんどんのめりこんでいった。

「当時は『ヒップホップ? なにそれおいしいの?』と言われるくらい、認知されていなかった時代。 たぶん変わったことをしていたのだろうし、周囲には理解されなかったけど楽しくて。 ダンサーは男性ばかりで『女がそんな種類のダンスを踊るな』とよく言われた。 そんな時代だった。 でも気にせず踊ったけどね(笑)」

そのうちダンサーとして声がかかるようになり、AKIさんは「お小遣い程度」と謙遜するが、きちんとギャラをもらい、仕事としてステージにも上がった。 今もダンス仲間との交流は続いており、過去にはDJを呼んで「Crenshaw」でダンスイベントを企画したこともある。 また「Crenshaw」という店名も、ダンス愛が由来。 ロサンゼルス・クレンショウ地区にあった、プロのダンサーがプライベートで訪れるという有名なクラブにちなんでつけたそうだ。

「音楽、ダンス、お酒」をコンセプトに。

お店を始めたのは43歳のとき。「フォークにはフォークダンス、ジャズにはジャズダンスがあるように、その種類の音楽には、必ずその種類のダンスがある。 さらに音楽やダンスのある場所には、お酒がある。 この3つは切り離せないものだと思う」。 というわけで、コンセプトは「音楽、ダンス、お酒」。 さらに、この3つにまつわる人間模様が好き。 料理も好き。 AKIさんの仕事場には、ご自身の好きなものがたくさん揃う。

今のようにお店で日常的にライブが行われるようになる10年以上も前のこと。 あるとき、常連さんがアコースティックギターを持ち込んで、一緒に歌おうとAKIさんに声をかけた。 カラオケしか知らなかったAKIさんだが、いざ歌ってみるとおもしろい。 これがきっかけで歌い始め、現在はリーダーバンドを率いてライブを行うまでに。 同時に、「Crenshaw」も音が出せる環境を少しずつ整えたり、お客さんから楽器を寄贈されたりして、音楽のお店として進化していく。

「音楽は聴く側だったのが、楽しくて歌っているうちに気がついたらプレイヤー側にいた」というAKIさん。「好き」を自ら楽しむ店主のスタンスが人を引き寄せるのか、「Crenshaw」にはミュージシャンをはじめ多くの人が集い、お店を中心にしたコミュニティが形成されている。 AKIさんのネットワークは、あらゆる世代、職業の人とつながっていて、その人脈は驚くほど広い。

それは素晴らしい財産だと思うのだけど、つい考えてしまう。 正直、面倒なお客さんもいるんじゃないかしら、と。 長くお店をやっていると、なかにはお酒に呑まれちゃう人だっているでしょう。 AKIさん、お仕事大変では?

だがAKIさんは「うーん、面倒な人なんていたかなぁ」とあっけらかんとしたもの。「女ひとりでやる店だから、面倒な人というより、怖い人を避けたい」と、あえてwebサイトは開設せず、クチコミでお店を知ってもらうようにしてきた。 おかげで、いい人ばかり来てくれてありがたい。「そもそも人によって考え方、感じ方が違うのは当たり前。 逆に、へぇ、そんなふうに思うんや、というサプライズがあっておもしろい。 思えば、それが私の原動力かもしれんね」

AKIさんの明るい口ぶりを聞いていると、「Crenshaw」はAKIさんの天職のように思えてきた。

人と作り上げる空気感が好き。

最近AKIさんは、友人が経営するダンス教室の発表会のお手伝いで、ホールアナウンスを担当したそうだ。 出演前の生徒さんたちの緊張感や、裏方の気ぜわしさのなかに身を置いて、「つくづくとダンスと音楽が好きやなぁ」と思った。 そしてなにより「(パフォーマンスやイベントを)みんなで作り上げていくという空気感がたまらなく好き」なのだと再確認した。

みんなが気持ちを一つにして力を合わせ、その相乗効果でさらなるパワーが生み出される。 そんな表現の現場ならではの空気を肌で感じることは、リモートでは得難い。 はやくコロナ禍が落ち着いてほしいと願う。「今は行政から要請される感染症対策を全部やって、できる範囲で楽しむしかない。 みんなでまた以前のようにワイワイやりたい」と話す。

「Crenshaw」を訪れる人々も、きっと同じ気持ちだ。さまざまな制約があるけれど、やっぱり街には人と人とをつなぐ「Crenshaw」のような場所が必要なのだ。

6月25日にはオープニングパーティが開催され、AKIさんのライブやお客さんが参加してのセッションが行われた。 写真はAKIさん(中央)と共演者のみなさん。

店内にはAKIさんが好きな「エリカ・バドゥ」の切り絵が飾られている。 歯科医であるお客さんが制作、寄贈してくれたもの。

AKI(アキ)

大阪・布施市(現・東大阪市)出身。 学生時代にダンスと出会い、OLをしながらプロダンサーとして活動した後、紆余曲折を経て43歳で「Crenshaw」をオープン。 自身のバンドを率いてボーカルとしても活動中。

Facebook
https://www.facebook.com/akiko.inoue.75098

Crenshaw

ジャズ、ブルース、ファンク、レゲエ、弾き語りオープンマイク、ソウルなど多ジャンル音楽のライブ&セッションをはじめ、オーガニックワイン会といった飲食関連の催しなど、参加型のイベントを数多く開催。 過去に原田真二さん、木村充揮さん、本間敏之さん、長野たかしさんなども出演。 マスク着用、手指消毒、検温、人数制限、CO2センサーの取り付けなど、行政からの要請をすべて守って営業中。

Crenshaw
東大阪市御厨南2丁目1-26 2F(近鉄・八戸の里駅から徒歩約5分)