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世界は回復を繰り返している / 道楽がつくった阪神間文化 ②

ART, CULTURE

櫻正宗は明治41年に地元の魚崎小学校に金品を寄贈している。運動会にお酒50本、器具器械費として300円。1銭が今の200円に相当するという資料があり、換算すると600万円となる。

前回、酒造会社はメセナ(企業による社会貢献)などと言われる前から、いろんなことをやってきていると書いたが、酒造りが水、職人(杜氏 とうじ)、米というその土地と人によって成しうる営みであるからに他ならない。

記念館などを訪れると、会所場(かいしょば)と呼ばれる職人たちの部屋や食事が案外ちゃんとしていることに驚かされる。養父も、杜氏をはじめ、「職人さんは大切やった。やめられると困るしな」と言っていたように思う。箱膳、それに食器も、家族と変わらないものを使っていたと聞いた。

会所場 これは菊正宗酒造記念館で

水はもちろんのことだ。魚崎の酒はどうしても西宮に勝てないので、西宮から水(いわゆる宮水)を運んできて造ったら、旨い酒ができた、というのは有名な話。

1930年代から酒米を代表する銘柄となった山田錦が、灘の酒を支えているのも、周知の事実。前職で兵庫県三木市に勤めていた頃、お客様と名刺交換をしたところ、「御影の上念さんですか?」と聞かれて、うろたえたことがある。黒田庄のほうで山田錦を作っている農家出身で、上念に納めていた方らしい。挨拶だろうが「新右衛門さんには、よくしていただきました」と言っておられた。新右衛門とは、養父の従弟で「新宅」と呼ばれており、戦後しばらく酒造りを続け、やはり菊正宗に譲渡したと聞いている。

長くなったが、要するに酒はその土地の恵みと人に拠っているということだ。だから、阪神・淡路大震災は、ひどかった。幸い、水の流れに大きな影響はなかったようだが、多くは木造の、歴史ある蔵は倒壊し、酒蔵の街並みは一変した。櫻正宗の美しかった内蔵もペシャンコに潰れたが、地元魚崎の活性化と酒造文化の伝承を目指し、震災で倒壊した蔵の古木を再利用してオープンさせたのが、記念館「櫻宴」だという。

震災前の櫻正宗(模型)

阪神大震災直後(1月28日)の櫻正宗

訪れたとき、ちょうど2階のギャラリーでカラフルなやさしい展覧会が開かれていた。「或る森と女」と題されたオオヤマネコという人の個展だ(8月5日~31日)。この展覧会の様子がまとまってYouTubeに上がっているので、ぜひご覧いただきたい。

オオヤマネコ個展「或る森と女」入口

同展会場風景

人の姿を描いている作品が多く、色彩は奔放、大胆なポーズのヌードは、エロティックというより自由を感じさせ、「いいんだよ」といわれているような気がする。荒々しいタッチの中にも、近寄りたくなるような柔らかさが感じられる。何か物語が始まりそうな予感がする。少しさびしさを感じるものもある。世界はいろいろと難しいことがあるが、回復に向かっていると思っていいんだよね、とささやきかけたくなる。

こういう世界に、こういう場所でふれられたことを、大げさでなく、天恵だと思えた。

 

■ 阪神・淡路大震災「1.17の記録」(神戸市)
http://kobe117shinsai.jp/

■ オオヤマネコ
http://ooyamaneko.web.fc2.com/index.html

[今後の予定]
2020/10/28〜11/23 個展『ラヴレター』
場所:櫻正宗記念館「櫻宴」2階 櫻宴gallery
https://www.sakuramasamune.co.jp/sakuraen/sakuraen_index.html

〒658-0025 神戸市東灘区魚崎南町4-3-18
TEL:078-436-3030