日々の碑 ②
まだ朝もやの残る水曜日
自転車で家を出る
背負ったリュックの底には弁当
その上にシャツを2、3枚放り込む
快晴
今から42.195キロ程の林道を走るのだ
チャリでやけど…
独りでな
まず非常時に備え
大吟醸の小瓶を求めたが無く
白鶴まるのワンカップを購入す
自転車は走る
よく走る
チェーンにオイル
ブレーキワイヤーも交換した
但し変速ワイヤーはワヤのまま
丁度ええ所で止まっているので
もう一生直さない
播磨中央自転車道に入る
狭い町だし
地名等は言いたくないが
何年か前に十三のキャバクラ嬢が殺され
死体遺棄されたダム湖へ向かう
大きなダムだ
河川敷
平行する道
地平線の手前
のんびりだが格好つけて
4トントラックが走る
昨日も明日も
俺アレアノ人なのだが
そうなのだ
俺は先日
仕事でピカピカの新車をあてがって貰い
シートはふわふわ
音は良い
ただ
車線踏んだらブーと言い
ベルトせなんだらピーと言い
車間詰めたらピピピと言い
ピーピーピーピー
キミは長渕剛か!
とツッコミたくなる衝動にかられるほど
コンピューター制御凄し
路線バスの如しアイドリングストップ機能まで付いているのだ
AM派からFM派へ転向
時代の流れを受け入れながら
回想しながら
自転車は走る
そういや昔
今もそうなのか知らん
アメリカのトラック運転手は
広大な大陸を旅し
物流の大動脈として
州境をまたぎ
無線でやり取りし
ラジオのヒットチャートの鍵を握っていたという
各州のラジオDJはトラックの運送手だけには頭が上がらなかったとか
日々、古い黒人音楽を聴きながら
アメリカを音楽で変えてきた
アフリカンアメリカン達のソウルを想い
古き良きアメリカンドリームに浸りながらハンドルを握る日々
しばし忘れ
今はひたすら
ペダルを踏む
河川敷
鳥が鳴く
テレビドラマで電話が鳴るように
耳のすぐそば耳もと
川鳥が鳴く
川に目を落とす
日向ぼっこしていた亀が
ドミノよろしく
軒並み川へ飛び込む
あれはスッポンではないのか?
もしそうなら
一匹4000円程になるのではないのか!?
霧は晴れ
日射しが強くなり
汗が出
シャツを着替え
自転車を漕ぐ
小さな橋に
オッサンがいる
そこに自転車でまた別のオッサンが
矢印板を持ってきてドスンと置いた
「おはようございます」
上機嫌の俺は口走る
「今日なんかあるんですか?」
子供会のサイクリング大会らしい
「ええ天気で良かったですねぇ」
と言うと
『ありがとうございます』
この返しは不思議と残念であった
「ホンマやの〜」
が俺の求める正解であったのだ
期待はいつも裏切られるためにあるのだ
そしてパトカーだ
俺が通過しようとすると同時にドアが開き
二人のお巡りが降りてきた
なんやねんコイツら
と思いながら先を見ると
サイクリング集団カムヒア
流れる雲を仰ぎつつ
道を開けた
野花に蝶が飛んでいる
小さな橋を渡るたび
せせらぎが耳を横切る
透明な空気の合間
鼻をかすめるのは
墓場の線香
金木犀
下水道の臭い
全ては過ぎていく
自転車は山へ入る
木漏れ日がチラつく中
流れる景色をフチドル俺のまつ毛を
赤に青に緑に
不規則だが交互に照らす光に
恍惚としていると
害獣避けの大砲が鳴る
余韻が木霊し
チャリを停め
座り込み
詩作に耽る
腰の曲がった農夫が軽蔑の眼差しでノートを覗き歩き過ぎる
嗚呼、嗚呼
とカラスが鳴く
何もかもが愛おしい
若者は町へ出て
老人になり畑を耕す
Down To Earth
人は神様に羽を切られ
天から産まれ堕ちて来て
ホコリを被りながら
土へと帰っていくのだわ
月曜日に月が出て
火曜に火の地球が産まれ
水曜冷めて海となり
木が生え
金曜草木は紅葉し落葉し
土へ帰す
のだ
ランボーも
ジムモリスンも
今はいない
俺は今此処で生きている
今なのだ
金木犀の香りを肴に
白鶴まるを開けるのは
自転車は走る
ダム湖を周る
草木は自由奔放で
それぞれのやり方で日光を屈折させ
この目に飛び込んでくる
我よ我よと生きている
草木も
風も光も音も
ふと
愛する人を思い出す
彼はコロナ禍ベースを学び
俺の暮らしを盛り上げてくれた
昔昔
ベビィの彼は言葉を覚えてすぐ
人生を嘆く俺を差し
「そんなん言うのはバカモンやで」
と言った以来
俺は一目置いている
魂年齢は彼のが上
そう信じて疑わない
そんな自分に Be Here Now
自転車は走る
森の精
風の精
光の精
影の精
折り重なる精に神が宿る
精神
精子
飛び交う粒子
太陽の精子を受け
息づく大地
生命の宝庫
地球
美しい地球
ダム湖一周を終え
温泉に浸かっていたら
なんか職場関係の
なんか似ている人が来て
すぐに出たのさ露天風呂
フルーツ牛乳
大広間
猫の喧嘩を見学し
何も喰わずに外へ出る
帰り道
ススキ野原で遅い昼食
開けた弁当膝に置き
流れる雲を見
遠くの山の
緑の緻密なバリエーション
混じりそうで混ざらない
木々の押し合い圧し合いを
瞳を開き
宇宙を感じ
米を噛み
塩の味
自転車の
回るタイヤは
シャリシャリと
落ち葉を鳴らし
ジャリっとチャリ停め
盛りのついた蝶を追い
白鷺に石を投げ
迫る電車に身をかがめ
蛇の抜け殻
撮影し
自転車は走る
山頂の寺へ参拝
永遠に続く上り坂
途中で挫折
Uターン
下り坂を滑走
風を切り
日が傾く
次回はハーモニカを持ってこよう
と強く思う
忘れ物
そうさ全てを忘れていく
ここかしこに
思い出を置いていく
中途半端を極める
ってのも
なかなか難しいんだぜ
風当たりがな
楽しければそれでいい