「音談るつぼ」#11 ジャズ研飲みで、私と。その4
仲間と音楽談義しながらお酒を酌み交わすなんてこともしにくい昨今。 じゃぁ気分だけでもってことで、「ジャズ研の学生が、だらだら飲みながらしそうなジャズの雑談」をお届けします。 ぜひお酒やお茶を片手にゆるっとどうぞ。 私も呑みます。
今回の肴
“いつか演奏したい、超激ムズの名曲”
16小節ごとに5度転調、かつ4拍子 ⇄ 3拍子。
「Comrad Conrad」という曲をご存知でしょうか。 コンラッドさん、という亡くなったお友達(Comradは「同志」という意味)へ捧げた曲らしい。 作ったのはビル・エヴァンスさん。
私の頭に流れるのは、1979年のアルバム「We Will Meet Again」に収録されているバージョンです。「トランペッターではトム・ハレルさんが好きだ、愛してると言っていい」と公言していたら、親友の彼氏さんが「トムさん参加のいいのがありますよ」と貸してくださった。 ビル・エヴァンスさんのピアノトリオに、トムさんとテナーサックスの2管を迎えたクインテットのアルバム、とのことだった。
We Will Meet Again / Bill Evans
Bill Evans(p)
Marc Johnson(b)
Joe LaBarbera(dr)
Larry Schneider(ts他)
Tom Harrell(tp)
曲との出会いには、タイミングというものがあるでしょう。 最初に聴いて、そうでもなかった曲も、時間を置いてみたら素晴らしさに気がつく。 私にとっては、「Comrade Conrad」がまさにソレで、CDをお借りした当初は別の曲が気に入っていたが、ずいぶん経ってからある日突然心に刺さるようになり、一時期しつこく「Comrade Conrad」ばかりリピートして聴いていた。 当然ながら、演奏してみたくなる。
ところが、あまりにもプレイが自然なので軽く聴き流すと気がつきにくいのですが、「Comrade Conrad」は1コーラスごとにキーが一個ずつあがっていく仕掛けの曲なんだよね。 いやもっと丁寧に言おう。 16小節ごとに5度上に転調する曲なのだ。 テーマ前半16小節のキーはB♭m。 後半16小節のキーは5度上に転調して、Fm。 恐ろしいことに、続くコーラスにも「5度上転調ルール」は適用されていくため、2コーラス目は前半キーCm、後半キーGm。 3コーラス目は前半キーDm、後半キーAm。 バックテーマで元のキーに戻るまで、延々と転調が繰り返されていく。 遠くない未来、必ず「A♭mとE♭m」や「C♯mとG♯m」といった♯や♭だらけのコーラスが出現するわけだ。
それだけじゃない。「Comrade Conrad」は拍子も変化する。 コーラス前半は4分の4拍子、後半は4分の3拍子になっており、もちろんソロにおいても適用される。 16小節ごとにキーもノリも変わるとあって、演奏してみると、もう頭も体もてんてこまい。 一度だけライブで演奏を試みましたが、撃沈でした(メンバーにも無茶振りしたよね・・・・)。
エニーキーの教材としても。
ジャズ界隈にいると、「エニーキーに対応できること」がしばしば話題になる。 現場ではヴォーカルさんがいる場合は、声に合わせたキーで演奏しないといけないし、そうでなくとも、いろんな曲を演奏するためには♯や♭の数に関係なくプレイできることが本当に大事、ということなんです。 リアル・ジャズ研部員だったころ、私のコードの理解は「メジャー、マイナー、あとセブンスはわかるよ!」というセブンス止まりだったので、いや、正直に言うと大阪に来てからもしばらくそんな感じだったので、初めて「エニーキー」という言葉を聞いたときは、ものすごくハイソサエティでアカデミックな印象を受けたものです。
では、この「エニーキー」問題に、偉大なミュージシャンはどう対応しているのか。 この問いの答えを、「Comrade Conrad」のソロを聴くと、ちょっとだけ垣間見ることができるのだなぁ。
たとえば、テナーサックスのラリー・シュナイダーさんは、アルバムに収められている他の曲と比べると、「Comrade Conrad」ではソロがややシンプルになっている気がする。 いや、吹いてるだけですごいんだよ。 4コーラスも淀みなく吹いてるだけでめちゃくちゃすごいことなんだけど、短いモチーフの繰り返しやリズム勝負のシンプルフレーズも多い。 このやり方は、現場で渡された譜面が恐ろしいキーだが言い出せない、といった局面を乗り切るヒントになるかもしれない。
一方、トム・ハレルさんのソロでは、トムさんの持ちネタフレーズを見つけることができる。 キーが変わっても、コーラスの同じ場所で、同じフレーズを使って吹いているのだ。 こちらです。
転調などものともせず、どのキーでもいつもどおりに歌っているということなんだろうな。 そして同じフレーズが出てくるということは、トムさんほどの神でも地道にフレーズを増やす練習をなさってきたのだろう、と推測できるシーンです。 こういうの発見しちゃうと、ヨーシ、私もフレーズ増やすぞ、と思っちゃう。
それにしてもなんという美しい曲だろう。 テーマもソロも、泣けるほど美しい。音楽において「美しさ」と「難しさ」はとくに比例しないと思うのだけど、「Comrade Conrad」という曲に限っては、核にある繊細さや儚さみたいなものが、独特の緊張感のなかで際立っていて、難しいからこその美しさかもしれないなぁと思う。 亡くなったコンラッドさんは、どんな人だったんだろう。
ちなみにトランペッターの間ではわりと知られているのですが、YouTubeでトム・ハレルさんの12キーのブルースソロを聴くことができる。 どのキーも息をするようにさらさらとフレーズが流れ出て、見事すぎてあっけにとられるくらい。 これぞエニーキー。「ジャズ研飲み」ではぜひ合わせてチェックしたい動画なんである。
かわださやか LIVE予定
ASASHIO LIVE
2/27(日) & 4/17(日) @ CELLAR BAR KENT
2管+ウッドベースのジャズトリオ。 2018年の結成以来、偶数月の日曜日にレギュラーライブを行なっています。 2ステージ全力でがっつり演奏。
【2/27】
- 日時: 2022年2月27日(日)開場14時、開演14時30分
- 料金: 入場無料・チップ制(要オーダー)
- 場所: CELLAR BAR KENT(大阪市中央区道頓堀2-4-2 B1F)
- 出演: かわださやか(tp)、重谷ありさ(ts)、西尾寛之(wb)
【4/17】
- 日時: 2022年4月17日(日)開場14時、開演14時30分
- 料金: 入場無料・チップ制(要オーダー)
- 場所: CELLAR BAR KENT(大阪市中央区道頓堀2-4-2 B1F)
- 出演: かわださやか(tp)、重谷ありさ(ts)、西尾寛之(wb)
Sayaka-Stars Live & Session
4/22(木) @ Cafe & Bar Lamp
「さやかスターズ」という、恥ずかし嬉しいユニット名をつけてもらいました。 1stはスタンダードジャズを中心に演奏するライブ、2ndはセッション。 譜面や楽器ご持参でお気軽にぜひ。 聴くだけの方も歓迎です。
- 日時: 2022年4月22日(木)
- 料金: 入場無料・チップ制(要オーダー)
- 場所: Cafe & Bar Lamp(大阪市中央区松屋町4-18実和ビル3F)
- 出演: かわださやか(tp)、松岡徹(gt)、西尾寛之(wb)