南米夢紀行
町外れの工場に氏が現れたのは2年ほど前。ひと目でラテン系と分かるその佇まいと、長身で内股の紳士はどこかトボけた雰囲気を漂わせていた。俺は聞いた。
「音楽好き？ ボッサ？ サンバ？」
氏は言う「サルサ！ サルサ！」
俺「おお、ファニアオールスターズやね！」
ファニアのファの字も出て来ぬ田舎の工場に一筋の光が差した瞬間であった。
日本の音楽はどうですか？
と聞くと「Oh〜、オルケスタ・デ・ラ・ルス！（日本のサルサバンド）ニューヨークに住んでた頃ミタヨ」
後で調べたら1999マジソンスクエアガーデンのファニアのライブの前座を務めた。と載っていた。「ファニア観たよ！」と言う氏に「羨ましー」と言いながら…
奇しくも俺もその頃ニューヨークを訪ね “ばるぼら” というロックバンドで、今では伝説のハコ “CBGB” に出演したりした。あの頃かぁ…と思ったりしながら…
氏は姫路トロピカーナの常連で、週末は遅い食事をしてから踊りに出かけ朝まで踊る、という典型的なラテン系生活をしてるらしかった。
ある時は、ステップを教えてくれ、
ある時は、ファニアのメンバーを言い合いながら荷の積み込みをした。
ある日、氏は紙切れをくれた
「コレ故郷ネ」と言った
「ペルーなんや？」
「ソーソー、海キレイヨー」
ある時はスマホを出して
“Perucha” と打って見せてくる
「こんなデジタルなサルサも好きなんや」
と言うと
「歌ウマイヨ〜。グアグアンコは？ 知ってる？」と言うので
「わ！ 今めっちゃ聴いてるねん。クンビアは？」
と言うと「ああワカルワカル」
だが、とにかくファニアオールスターズの話になると熱い。
氏「ファニアは、キューバ、コロンビア、プエルトリコからいっぱいいっぱい集まって…」「まさにオールスターズ！」
と言うと「ソーソー」と深く頷く。
▼ 南米カリブ海の音楽を総括しサルサをニューヨークで爆発させたファニアオールスターズの映画『Our Latin Thing』
ある時はアフリカはコンゴの
Franco & TPOK Jazz
をCDRに焼いて渡した。
「アフリカは50年代にラテンブームが起こっててこんな音楽あるねんで」
「ホント？ OK！」
すると翌日「アレ、キューバのリズムね！でも言葉ワカラナイ」と言った。
ある時は
デスカルガ（ラテンのジャムセッションの事）の途中でやたら歌手が叫ぶ「アイナマ！」という言葉、あれどう言う意味か？と尋ねるとキューバの原住民の言葉で「OK、そのまま続けろ！」という意味だと教えてくれた。
ある時はサルサのパーティーに誘ってくれたが金がないと断った。なんとノリの悪いトラック運転手…と思われたんとちゃうやろか…
ある時は休憩時間
「なんで日本に来たん？」と聞くと
「向こう給料ヤスイ！」
なんでも（俺の聞き違いでなければ）鈴鹿にペルー移民のコミューンがあり
「夏は集まって皆でタイコで踊るヨ」
氏は続ける
「ペルーも昔は農園主のポルトガル人とアフリカから連れてこられた奴隷黒人との間に壁があり仲が悪かったが（自分の顔を指差しワタシ、クロジン混ざってる、と言いながら）今は皆結婚に結婚を重ね子供ができ孫ができ仲良くなった」
とそんな様な事を言う。
「肌の色、カンケーないネ！ 白も黒も青も皆同じ赤い血がナガレテル」と。
ある時は
「スサナ・バカは？」
と言うと
「おー！ ジッカキンジョ！」
（氏の故郷カニエテ郡とスサナバカの出身地チョリヨスは姫路〜大阪ぐらい）
と言うので、スサナバカも歌ってたペルーの古い歌 “トロマタリ〜♪” を歌うと目を白黒させてのち合唱になった。スサナバカはインターナショナルな歌手でアフロペルーの誇りだと、そんな様な事を言っていた。
▼ Toro Mata
ある時は
「ペルーの人みんなウタ下手ネ！
でも踊りは皆ウマイヨ！ 日本人逆ネ。」
とも言っていた。
氏は基本無口で無表情だが突然トボけたギャグをかますし陽気。
（無口でも明るい人はいて、逆に暗いのにお喋り、という人もいる）
そして優しい。俺が仕事でドヤサレた日などは、黙って近寄ってきてニッコリ微笑んでくる。そんな時俺は聞く
「酒は？ 毎日飲むん？」
「おお、ストロングゼロ！ 長い方の、甘いヤツ、2本呑んでフラフラね〜」
と目をくるくるさせながら作業場へと去っていく。
今はコロナ禍で全く踊りに行ってないらしく
「オドリカタ、ワスレテマウワ」
と言い
「コロナ、アブナイヨ！」
と言っている。
南米夢紀行 / ボケロウ
ボケロウ NEW ALBUM
「ドライ・フラワー」Now on Sale！！
『ボケロウ / ドライ・フラワー』
14曲入りCDR 税込 1000円
オープンリール一発録りのNEW ALBUM完成！！
お問い合わせはTwitterのDMにて
ボケロウ｜Twitter
https://twitter.com/adadgjgjmpmp85
