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山村幸則氏 アートプロジェクト「星屑男」を振り返る / 続・密やか式(第六回)

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去る11月2日から7日まで、新長田合同庁舎においてガラス作家・吉田延泰氏が主宰する Naked Craft Project のキュレーションによる KOBE BOTTLE ART 2021 が開催された。
矢野衣美氏、山村幸則氏ふたりの美術家によるワークショップと展示が行われ、そのうち、山村氏のアートプロジェクト「星屑男」の記録撮影に関わらせていただいた。
とても興味深いプロジェクトに関わらせていただいた貴重な体験を、少し時間が経ったいま、あらためて振り返ってここで記録しておこうと思う。

山村氏とは以前からギャラリーやなにかしらのイベントでお会いする機会もあってお話をしたことありSNSでの展示情報などで美術家とは認識していたものの、どこかしらにしばらく住み込んで当地の生活とともになにかしらを制作してみたり、陶器的な作品を作られていたりしているクソ丁寧な(失礼!笑)な話し方をする人、という程度の認識しかなかった。 そんな山村氏から10月初旬、突然SNSでメッセージをいただいた。
話し方と同様、クソ丁寧(失礼!)な文面で「今月後半に作品撮影を行いたく、話を聞いていただけませんか」とのことだったので、近頃は美術家の作品撮影をさせていただくことも多々あり、こちらとしては光栄なことで望むところでもあり、お会いできそうな候補日を返信させていただいた。
すぐに返信があり、お会いしたのが2日後の10月7日。 氏が以前からされていた「変身」というか「変態」的なプロジェクトの記録を拝見し、今回の撮影も10年ぶりくらいにその「変態」的な作品なのだと言う。 そのときに初めて上のようなプロジェクトの一環としてのものであり、ラムネの瓶の欠片を身に纏って新長田界隈を歩くのだとお聞きし、展示が11月2日とすぐ目の前に迫っているということも知らされた。
「いや、そんなん、早いこと撮影せなあきませんやん」と言うも、衣裳づくりも今からなのだと、クソ丁寧(失礼!)な口調でおっしゃる。 ゆっくりお話するのはほとんど初めてだったので、箕面ビールでも飲みながら、と思っていたところがそれどころではなく(山村氏持参のビールは話しながらいただいたので、お土産に持って帰ってもらった)、とりいそぎ、撮影日を10月23日と決めて、ご自身が衣裳制作されるのを待つことになった。
新長田は以前にも何度か歩いたことがあり、おおよその感じは見知っていたのだけれど、念のため10月10日、休日を利用してひとりロケハンを行った。 若干の二日酔いでふらふらしつつも、おりしも界隈では「下町芸術祭」が開催されていたのでついでにあちこちの会場を覗きながらの充実したロケハンとなった。

撮影日を決めたころには雨予報だった天気も、数日前から曇りときどき晴れの予報に変わり、まずまずの撮影日和となった撮影当日。 現場で初めて目にした衣裳はスーツにネクタイ、シャツ、靴、カバンにいたるまでいたるところにラムネ瓶の欠片が装着された、とても10日あまりで制作されたとは思えない素晴らしくクソ丁寧(失礼!笑)に作られたかっこいい衣裳であった。 特筆すべきは、ラムネ瓶の底で作られた眼鏡。 昔から言い古された厚いレンズを揶揄して言う「牛乳瓶の底眼鏡」を、ラムネ瓶の底に置き換えてフレームから自作された眼鏡は造形の美しさとともに洒落が利いていて、美術家としての底の深さを思い知らされた。

造形がとても美しいラムネ瓶底メガネ(レンズ部分の透過率は激しく低い)

そんな眼鏡をかけて「ほとんど見えてない」状態で、まずは仕舞屋の立ち並ぶ下町から撮影開始。 キュレーター吉田氏が運営する「蒼庫」の奥、清涼飲料水販売会社の冷蔵庫として使われていた真っ暗な倉庫がファーストショットであった(撮影直前に倉庫でも撮影したいとは聞いてはいたが、そんなところとは思いもよらず、なんでそんな場所で撮るのかも知らずに撮影を始めた)。
道々お話を聞いたり、合間にプロジェクトのフライヤーを読んだりしながら、それがこのプロジェクトの原点であり、肝であることを徐々に理解していくのだけれど、当初自分は、ラムネ瓶の欠片を全身にぶら下げた「異形の人」または「異界から来た人」が、町々の人々とコミュニケーションをとったりとらなかったりしながら、長田という町に馴染んでいく、というような撮影ストーリーを脳裏に描いていた。 ガラスの破片は、それを纏う人の繊細で透明な心を顕し、また、他者が安易に近づけば傷つけてしまうことがあるというようなある意味排他的で武装した心、いわば心優しくあるのにその異形さでなかなか理解されずに村の人々から恐れられている童話「泣いた赤鬼」のようなイメージ。
プロジェクトのなかでは、長田のソウルドリンクと呼ばれる清涼飲料水「アップル」を道々で出会った人に飲んでもらうという小さなイベントも予定されていて、丸五市場に向かう途中で出会った家族連れに声をかけた。 小学生を数人連れたおそらく「下町芸術祭」を鑑賞に来ていたのだろう若いおかあさん二人は大阪から来たのだと言い、「星屑男」(当日はまだネーミングがふわふわしていて「ラムネ瓶男」とか言っていた)の姿をおもしろがって、異形の人ともフランクにお話をされていた。 おいしい!と喜んでいた子どもたちがアップルを飲み終わるころには、若いおとうさんが「さっきそこで買ったんですよー」というバナナをお礼にくれた(笑)。そんな様子も「なんだよーいい感じー」とか思いながら写真に撮って、丸五市場 − 六間道 − ガスタンク − 建設工事中のでっかい処理場 − 海辺へと歩を進める。 そうこうするうちに晩秋の陽はすっかり傾いて、漁港で夕陽を背景にドラマチックな絵を撮影。

バナナをいただく「星屑男」

夕陽を背に凛々しく立つ星屑男

あたりが暗くなりかけたころからは商業エリアへと移動し、震災後に建設された駅まで連なるアスタの内外で撮影を行う。 鉄人広場にいた女子高生はさすがに警戒したのか乙女の恥じらいなのか、異形のおじさんが勧める「アップル」は飲んではくれなかった。
とっぷりと暮れたなか、山村氏のリクエストで集合住宅の奥にある公園、JRのアンダーパスに設置された背の低い信号機などのロケーションで撮影したあと、JR新長田駅の改札を出入りするシーンを撮影して1日がかりの撮影プロジェクト(動画も同時に収録)が終了した。

そりゃあ警戒されますわなー

遊具で遊ぶ星屑男

住民は口々に「邪魔やねん」と言う低い信号機。

ラストシーン、電車から降りてきた、というテイの星屑男。

晩秋の半日をラムネ瓶の破片を全身に纏い、見えない視界のまま長田の町を歩き倒した山村氏の「星屑男」プロジェクトは、その様子を記録した動画と写真、衣裳作品現物の展示でひとつの完成形となるため、ここからさらに展示用の出力が必要であって、撮影画像1200枚強からまず500枚をセレクトして現像、会場の広さや展示プランに基づいて10枚ほどに絞るため、そのなかからまたさらに30枚程度の候補を選び、搬入日が迫るなか、山村氏と相談しながら最終的に出力する写真を決定し、出力業者にちょっと泣きを入れて、搬入日前日には出力が到着、無事に展示に間に合った。

長田合同庁舎での展示

いたるところにラムネ瓶の欠片が装着されたスーツとスーツを脱いで身軽になった山村氏

ガラス作家でもあり、清涼飲料水販売店の家業を継承する吉田氏のプロジェクト ‘NAKED CRAFT PROJECT’ は、ガラス瓶の可能性を探りながら今後も継続していくそう。
最後に、展示を終えた吉田氏のSNSから「星屑男」についての名文を引用させていただく。
『山村幸則氏の “星屑男” ガラス片を纏った異様な風貌は、社会を視える形で遠ざけます。 瓶底眼鏡は、世界を歪ませ、ガラスのマスクはコロナ社会の象徴でもあります。 シャリンシャリンと、ガラス音を鳴らしながら町を独り歩く様は、他者との距離感を測りながら歩く人生の様を連想させます。 山村氏は、”星” をとったら “屑男” と笑いますが、この男は “星屑” を確かに纏い、町の光を反射させながら歩き続けています。』

KOBE BOTTLE ART PROJECT 2021
https://www.nakedcraft.com/copy-of-about

NAKED CRAFT PROJECT
https://www.nakedcraft.com/

吉田延泰(がらす庵)
http://glassand.web.fc2.com/index.html/

山村幸則
https://hyogo-arts.or.jp/artist/member098/