春の兆し 〜 ギリシャのブルース『レベティコ』/ From Occident to Orient vol.8
春の兆し
3月になり、ベルリンにも春の兆しがやって来ました。
まだ寒い日もありますが、暖かい日も増え、日光浴などのために公園等では沢山の人が集っています。 すでに5ヶ月以上もロックダウンが続いており、唯一楽しめるレジャーは公園や森へ行ったりすることぐらいです。
▼ こちらの写真はパーク・アム・グライストドライエックという公園です。
▼ こちらはトレップトアー・パーク。
ドイツは秋以降日照時間がとても短くなり、加えて曇り空が基本なので満足に日光を浴びることができません。 12月頃の日照時間が特に短く、1日8時間あるかどうかといった度合いです。 ビタミンDが不足しがちなので、春や夏の日光浴は重要です。 実際冬のどんよりとした気候により鬱になる人は多いです。 今年はコロナ禍のため長期のロックダウンとも被って例年以上に鬱になりやすいと言えます。 3月になりようやく暖かくなってきたので、今年は例年以上に日光浴を楽しみたいと思います。
▼ こちらの写真は先月の寒波のあとティアガルテンという公園で撮った写真です。 寒波から数日経ってましたが、公園内の小川にはまだ氷が残っているところもあります。
ギリシャのブルース『レベティコ』
さて、今回はギリシャの音楽を紹介したいと思います。
ギリシャは多様な音楽カルチャーがありますが、その中でもユネスコの無形文化遺産にも登録されている、ギリシャのブルースこと『レベティコ』を紹介したいと思います。
レベティコはギリシャの音楽ではありますが、現トルコのアナトリア半島発祥の音楽です。ギリシャはかつてオスマン帝国領だった経緯もあり、アナトリア半島にもたくさんのギリシャ人が暮らしていました。かつてのスミルナ(現在のトルコのイズミル)には多くのギリシャ人が暮らしており、レベティコはその中で生まれたため、ベースにあるのはオスマン古典音楽で、さらにビザンティン音楽や西洋音楽の要素もミックスされてユニークなサウンドへ発展していきます。
レベティコといえば、ブズーキ という3コースないし4コースのロングネックのマンドリンのような楽器(グリーク・ギターとも呼ばれます、アイリッシュで使われるブズーキとは別の楽器です)が花形楽器ではありますが、これはあとから登場した楽器で、もともとは ウード、カーヌーン(カノナキ)、イスタンブル・ケメンチェ(ポリティキ・リラ)、クラリネット といったトルコ音楽で使われる楽器や サントゥーリ という打弦楽器での伴奏が中心で、トルコ音楽と同様に和声は多用されず、単旋律で微分音を伴うサウンドが主流でした。 こういったトルコ音楽の要素が強いものは “スミルナ・スタイル” と呼ばれています。
詳細は割愛しますが、1923年にギリシャ、トルコ間で住民交換が行われ、トルコ領内のギリシャ人たちは本国へ難民として送還されることになります。 その結果、ギリシャの港町ピレウス へ レベティコが持ち込まれさらに発展していくのですが、ギターやブズーキといった平均律の楽器が主流になり、微分音は無くなっていきますが、和声が発展し華やかでお洒落なサウンドになっていきます。 “ピレウス・スタイル” と呼ばれるサウンドの登場です。
いくつか楽曲を紹介したいと思います。
Markos Vamvakaris – Ta Ble Parathira Sou
まずはピレウス・スタイルの代表とも言える歌手、ブズーキ奏者の マルコス・ヴァンヴァカリス から僕の一番好きな曲、「タ・ブレ・パラティラ・スウ」という曲。 ゼイベキコスというゆったりとした9拍子になります。 特徴的なダミ声がクセになります。
Roza Eskenazi – Rampi Rampi
次に紹介するのはスミルナ・スタイルを代表する歌手の1人、ローザ・エスケナージ の「ランピ・ランピ」です。 軽快なカルシラマス(9拍子)の楽曲でベリーダンスの伴奏曲としても有名です。 ちなみにこれはトルコ語で歌われています。
Stella Haskil – Apopse Sto Diko Sou Mahala
次に紹介するのは ステラ・ハスキル の「アポクセ・スト・ディコ・スウ・マハラ」というゼイベキコス(ゆったりとした9拍子)の楽曲です。 前奏や間奏のクラリネットのフレーズがとても印象的な楽曲です。 ちなみにこの曲の元になったと思われるのはトルコの渋いゼイベッキ(Zeybek=トルコ・イズミル発祥のゆったりとした9拍子の舞曲)、『フェラーイェ』という楽曲です。
下記はトルコのサナート音楽の歌手、ミュゼイイェン・セネル が歌う「フェラーイェ・ゼイベーイ」です。
【Müzeyyen Şener – Feraye Zeybeği】
この例ように、トルコとギリシャにはそれぞれの言語で歌詞が書かれている共通の曲が非常に多いです。
Panagiotis Toundas & Ioannis Bernidakis – Mikro Melahrino
次に紹介するのは パナイョティス・トゥンダス と イオアニス・ベルニダキス の「ミクロ・メラヒリノ」という曲です。 上記3曲とも(筆者の好みもあり。笑)変拍子でしたが、こちらは4拍子の舞曲 シルトス となります。
Tetos Dimitriades – Misirlou
最後に紹介するのは世界的に有名な楽曲、「ミシルルー(ミザルー)」です。 映画 パルプ・フィクションのテーマとして有名ですが、オリジナルは旧オスマン帝国領内で19世紀に生まれたと言われていますが、ギリシャ人の他、トルコ人、アラブ人、ユダヤ人の中では親しまれており、出自ははっきりとはわかっていないようです。 この曲の最古の録音と思われるのは1927年の テトス・ディミトリアデス によるニューヨークでの録音で下記になります。
いかがでしょうか? ここベルリンにも沢山のギリシャ人が暮らしており、レベティコを演奏するミュージシャンもいます。 僕も彼らと時々演奏しています。
今から70年以上前の古い音楽でありながら、今なお愛されているのがとても素晴らしいと思います。
温故知新という言葉もあるように、僕たち日本人が同じように70年以上前の音楽を聴くとまた新鮮に感じるのではないかと思います。 僕は時々YouTubeにアップロードされている日本の古い音源も聴いているのですが、とても新鮮で音楽家としては勉強になります。
またこちらの連載で昔の日本の音楽も紹介していけたらと思います。