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MUSIC

春の雨

MUSIC, LIFE STYLE

春先に
しとしと雨降りゃ思い出す
数年前
田舎のイベント道の駅
その日私は歌っていた
土砂降りの中
無茶苦茶な気分で
帰りたい
早く帰って糞して寝たい
そんな気分を
なんとか抑えて歌っていた

そもそも事の発端は
いつもの如く一本の電話
若い青年からのオファーだった
「出店やキッズのダンスやDJ集めてイベントするんで歌って下さい」
彼とは何度か遊んだ事があり
ノーギャラなんですが。。
と申し訳なさげに頼んでくる
私は思った
私の歌は独特だし
田舎のマダムにアピールするか?
しかーし!
無名の自由と清貧 盾に矢を放つ
自称「心の狩人」ともあろう者
ノーギャラだろうがなんだろーが
20人中ひとりでも
誰かの心を射止められれば・・・
とそんなオーバーな考えでも無かったが
マイク2本とマイクスタンド2本
絶対忘れず用意してな絶対やで
と何度も念を押しOKした

そして当日
雨だ
小降りだが決行
幼稚園児や小学生
それを引き連れたギャルママ集団
ご当地メニューのテントが立ち並び
賑わっていた
私はエレアコギターを片手に
私設ステージに登る
リハーサルだが
PAに差し込むブタ鼻プラグが無い!
そしてマイクも無いと言う
今思やぁ
ここで怒って帰りゃ良かった
しかしそれも大人げない
ええよええよ
本番までに用意してや
と言い
呑み始めた

雲行きが怪しい
プログラムを変更し
キッズダンスを先終わらせよう
という事になり
そうこうしてると土砂降りに・・・
今思やぁ、ここで体調悪いとか
ナントカ言って
帰っていれば良かったのだ
近づく出番
やっとマイクだけ到着
ヘボ楽器屋め
あれだけ念押しただよ
連絡ミスか?怒るでしかし
だがしかし
主催の男が滅茶苦茶ええ奴で
一生懸命頑張っている
DJたちはレコードに夢中
ギャルママ達は去っていく
マイクスタンドは来ない
イライラし始めた

土砂降りの中
ひとりヤキモキしていると
楽器屋の若い兄ちゃんが
「マイクスタンド到着しました!」
ああ〜やれやれと思った直後
私はお目目を疑った
ストレートやんけ!

コレ、スティーブンタイラー用の
マイクスタンドやないかーい!
座って弾き語るんやからコッチやろ!

私の思惑は全て外れてしまった
そしてバケツをひっくり返したような雨
ステージもおじゃん
道の駅の軒下に入り
「もうここで歌うわ」
と言いストレートのマイクスタンドを2本抱きかかえるように
ムカつきながら歌う私に注目する人はおらず
歌声は雨にかき消された
ふと前を見ると
傘をさした天使がひとり
コチラを見
揺れていた
優しい笑顔
私の中で歌が生まれた
歌を歌いながら
頭の中で
別の新しい歌が出来ていた
頭だけ先に帰宅していたのかも知れなひ
ソメイヨシノという歌だった

春先に雨が降ると
この日のことを思い出し
あの苛立ちが甦る
「DJイベントで1人だけ歌う」
というシステムのやつは
2度と出演すんじゃねえぞ
と自分に改めて言い聞かすのであった

最後、謝る主催の青年に
「おい、許したるから500円くれ。いや貸して」というと「おごりますわ〜」というのでラムコークを頼んだ
あとは酔っ払って
あんまり憶えていない